航海概要
テーマ
T-Limit of the Deep Biosphere off Muroto (T-Limit)
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- Summary of scientific Prospectus>>こちら(PDF)
CDEXのページ>>こちら
予定期間
The shipboard team 2016年9月10日~11月10日 The shore-based team 2016年9月27日~11月24日 ※スケジュールは変更の可能性があります。
掘削船
ちきゅう
乗船/下船地
清水/高知
掘削地点
室戸沖
科学目的
Expedition 370 aims (1) to study the factors that control biomass, activity and diversity of microbial communities in a subseafloor environment where temperatures increase from ~30°C to ~130°C and which thus likely encompasses the biotic-abiotic transition zone, and (2) to determine geochemical, geophysical and hydrogeological characteristics in sediments and the underlying basaltic basement and elucidate if the supply of fluids containing thermogenic and/or geogenic nutrient and energy substrates may support subseafloor microbial communities in the Nankai accretionary complex.
共同首席研究者
Verena Heuer and Fumio Inagaki(off shore) , Yuki Morono(on shore)
J-DESCからの乗船研究者
氏名 | 所属 | 役職 | 乗船中の役割 |
(off shore) | |||
稲垣 史生 | 海洋研究開発機構 | 上席研究員 | Co-chief Scientist |
井町 寛之 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 | Microbiologist |
奥津 なつみ | 東京大学大気海洋研究所 | 大学院生(博士) | Paleomagnetist |
金子 雅紀 | 産業技術総合研究所 | 主任研究員 | Organic Geochemist |
神谷 奈々 | 日本大学 | 大学院生(修士) | Physical Properties Specialist |
藤内 智士 | 高知大学 | 助教 | Sedimentologist |
廣瀬 丈洋 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 | Physical Properties Specialist |
山本 由弦 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 | Sedimentologist |
Donald Pan | 海洋研究開発機構 | ポスドク研究員 | Microbiologist |
(on shore) | |||
諸野 祐樹 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 | Co-chief Scientist |
井尻 暁 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 | BioGeochemist |
星野 辰彦 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 | Microbiologist |
乗船に関わるサポート情報
乗船研究者としてIOから招聘される方には乗船前から乗船後に至る過程の数年間に様々なサポートを行っています。主な項目は以下の通りです。
- プレクルーズトレーニング:乗船前の戦略会議やスキルアップトレーニング
- 乗船旅費:乗下船に関わる旅費支援
- アフタークルーズワーク:モラトリアム期間中の分析
- 乗船後研究:下船後最長3年で行う研究の研究費
乗船の手引き(乗船前準備や船上作業・生活方法に関する経験者からのアドバイス集)>>こちら
募集情報
募集分野
- microbiologists
- organic and inorganic geochemists/biogeochemists
- physical properties specialists
- sedimentologists
- structural geologists
- paleontologists
- paleomagnetists
- petrologists
- hydrogeologists
- microbiologists
- organic and inorganic geochemists/biogeochemists
応募方法>>こちら
応募用紙の記入方法>>こちら
募集〆切
2016年6月20日(月) 〆切りました。
注意事項
応募者は、応募時に乗船・非乗船(shipboard team/shore-based team)の別を明示してください。乗船・非乗船のいずれに参加する場合も、本航海でのScience Partyとして同等の責任とサンプルへのアクセスの権利を持ちます。 shore-based teamは、高知コアセンター(KCC)で分析作業を行います。 shore-based teamの参加者には宿泊先の提供および日当の支給があります。 応募する方は全員英文CV、さらに在学中の場合は指導教員の推薦書が必要となります。 修士課程の大学院生の場合は乗船中の指導者(指導教員もしくは代理となる者)が必要です。
最終更新日:2016年11月28日 ※日付は日本時間
レポートインデックス
レポート13(2016年11月28日)>>T-limitプロジェクト終了!でも研究の本番はこれから!
レポート12(2016年11月22日)>>行くぜっ!温度限界の向こう側
レポート11(2016年11月8日)>>ホイ!ウイルス探しを始めましょう!
レポート10(2016年11月2日)>>活動拠点on theちきゅう
レポート9(2016年10月24日)>>デコルマ断層、船上に来たる!
レポート8(2016年10月17日)>>船での一週間
レポート7(2016年10月7日)>>小休憩
レポート6(2016年9月30日)>>神業リエントリー!
レポート5(2016年9月26日)>>コアリカバリーは突然に
レポート4(2016年9月23日)>>地層の温度を測る
レポート3(2016年9月21日)>>T-リミット開始!
レポート2(2016年9月20日)>>コアがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!
レポート1(2016年9月16日)>>T-limit航海はじまる
レポート13:T-limitプロジェクト終了!でも研究の本番はこれから!
諸野 祐樹 (海洋研究開発機構 主任研究員)
T-limitのブログでは初めまして、です。共同首席研究者の諸野(もろの)と申します。以前、IODP Expedition 357に唯一の日本人としてブログを書いていました。
さて、このT-limitブログ、最後の二回(前回の井尻さんと私)は共に陸上チームメンバーからとなりました。その理由は、僕たち陸上チームの活動期間が船上チームと二週間ずれているためです。今回のT-limit航海では、IODPとしては初めて、掘削船(ちきゅう)によって掘削・採取されたコアをヘリコプターによって高知龍馬空港経由で高知コアセンターに運搬、陸上チームによって最先端の分析が行われていました。採取された試料の分析・及びレポート執筆作業を行うための時間を確保するため、陸上チームの活動は船のオペレーションが終わった後、2週間続いていたのです。
でも、それも先日11月23日をもってついに終了しました!初めての船・陸を結んでのプロジェクト、ちきゅうでの掘削から始まり、船上研究チームによるコアの処理・即時分析、ヘリコプターでの搬送・受け取り、陸上での分析作業に至るまでに、たくさんの方々の努力、協力が詰まったプロジェクトでした。
プロジェクトとしては予定の作業を一旦終了しますが、研究としてはこれからが本番です。プロジェクトに関わったすべての方の努力の結晶であるコア試料は各研究者に分配され、これからそれぞれの研究室で分析作業がスタートします。それらが研究成果として花開く時をご期待頂きたいと思います。読んでいただきありがとうございました。
レポート12:行くぜっ!温度限界の向こう側
井尻 暁 (海洋研究開発機構 主任研究員)
この航海が始まった頃はまだ暑くて半袖を着ていたのに、気がつけばもうすぐ外は白い冬。あと3日で、長かった陸上班の仕事も終わろうとしています。
我々陸上班は、航海開始から2週間後の9月23日に高知コアセンター(KCC)に集合し、11月11日の航海終了後の2週間も引き続きKCCで働いており、航海中に船上から送られてきた掘削コア試料の解析やレポート書きに追われています。陸上研究者以外にも多くの人がこの室戸掘削に関わっていて、今もKCCで仕事を続けています。まだ室戸沖限界生命圏掘削航海調査は終わっていないのです。
さて、この航海の一番の目的は「T-リミット」という名のとおり、地温の高い室戸沖の海底下を、生命の限界温度と言われている約120℃以上まで掘り進み、生命の限界要因を探るというものです。一言で言うと「海底下の微生物は何℃まで生きているのか?」というのを知りたいわけです。
海底下の何℃の領域まで微生物が生きていて、それらはどんな奴らなのかを調べるためには、掘り進むにつれて減っていく微生物の数を調べてDNA解析を行うこと。これにつきます。
限界域に棲む細菌の数は非常に少ないので、船上で空気中や人間由来の微生物が混ざってしまわないように、掘削されたコア試料は、船上からヘリコプターによってKCCまで運ばれ、KCCの誇るスーパークリーンルームで処理され解析が行われてきました。
細胞計数チームは、アメリカから参加の二人。スポーツと科学的議論が大好きなラガーマンハリー(波理)、山も海も大好きな自然児エミリー(笑里)、陸上班日本人メンバーが彼らの名前に漢字を充てました。
DNA解析チームは、カナダから来たマーガレット(木春菊)。日本人よりも勤勉で蜘蛛が大嫌い。一人で「君の名は」(字幕無し)を観に行ったそうです。もう一人は、日本代表星野辰彦。いつも世の中を斜めに見ているその態度は、外国から来た3人からもすぐにばれて「辰彦はSarcastic(皮肉屋)だ」と言われていました。
このブログを書いている井尻は、諸野陸上コチーフと共に「高温・高圧培養」を行っています。
「高温・高圧培養」は細胞計数やDNA解析と同じく、海底下生命の温度限界を調べるためには欠かせない実験です。
海底下深くまで掘り進み、温度の上昇により細胞の数が減っていき、細胞計数やDNA検出の検出限界以下に達したとして、本当に「海底下の生物は○○℃まで生きていることがわかった!」と言えるのでしょうか?
星野辰彦氏は言いました。「何かがいることを証明することは簡単だが、“いない”というのを証明することは難しい。」
例えば絶滅したとされるニホンカワウソ、日本に一匹も残っていない、というのを示すのは、けっこう大変なことですよね。
そこで我々が考えたのが「高温・高圧培養」です。 簡単に言うと、海底下の微生物の温度限界らしきあたりで採られたコア試料をそのまま高温の培養器に放り込んで培養してやって何℃まで生きていられるか調べればいいやん。
というものです。
言うのは簡単ですが、海底下は高圧の世界です。室戸沖の掘削地点は水深4700 mなので470気圧の水圧がかかり、海底下ではさらに地層の重さも加わります。このような高圧で120℃以上の高温の環境を再現し、且つ微生物に餌(エネルギー源)をあげたり、中の様子を確かめるために少しずつ培養装置の中の水を採取したりすることができるスーパーな培養装置を、我々は航海の前から準備してきました。
このような大がかりで手がかかる培養装置を「ちきゅう」の上で長期間運用することは難しいことです。しかし一方で、試料はできるだけ採れたてほやほやのものを培養装置に入れてやったほうが、培養に成功する可能性が高いのは言うまでもありません。今回は、室戸沖で採取された新鮮な試料を、すぐにヘリコプターでKCCに運ぶことができたので、培養実験には最適の条件が整っていました。
試行錯誤の末、大事な試料が運ばれてくるのになんとか間に合い、海底下約800mのプレート境界断層付近で採られた新鮮な試料の培養を無事開始することができました。
現在、高い圧力で、5台の装置で培養を続けています。
ちなみに僕の個人的な趣味で、5台それぞれの装置には、低温から順にPink、Yellow、Green、Red、Purpleと名付けました。
現在の微生物の最高生育温度記録の限界は、122℃。
はたして、海底生命圏の温度限界を見つけることはできるのか?
そこにはどんな微生物が棲んでいるのか?
一緒に行こうぜ!温度限界の向こう側!
※実際に微生物が「生きている」かどうかを確認するために色々な分析を予定しているのですが、その話は少しマニアックになるので、結果を発表する際にまた詳しく説明します。
レポート11:ホイ!ウイルス探しを始めましょう!
Donald Pan (海洋研究開発機構 ポストドクトラル研究員)
ハロー! はじめまして。Expedition 370の船上Microbiologyチームメンバー、海洋研究開発機構のパンです。深海地殻内生物圏研究分野でポストドクトラル研究員として働いています。
「ちきゅう」への乗船もIODP航海も初めてです。だけど、掘削研究をしたことはあります。その時、使った掘削技術は陸上で「ちきゅう」より小規模なものでした。「ちきゅう」に乗船したときに、すごいハイテク掘削技術に感銘を受けました。
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陸上と海上ではだいぶ様子が違いますね |
私がExpedition370に参加している目的は海底下のウイルス圏のT-LIMIT(温度限界)の探究です。ウイルスは地球の表層世界にはどこでもいることが知られています。実際に、地球上のウイルスの数は、微生物細胞の数と比べて10倍以上と言われています。海底下にもウイルスがいることが知られていますが、低エネルギー供給で高温の海底下深部環境にウイルスが存在しているかどうかについて未解明です。このT-LIMITプロジェクトにより、ウイルスの分布に関する知識が広がると考えています。もし海底下深部にウイルスが存在していた場合、そのウイルスは微生物細胞と相互作用しているのでしょうか?そのウイルスは海底下微生物の進化に影響を与えているのでしょうか?そのようなシンプルで重要な科学的疑問を解き明かしたいと思っています。
もうすぐ陸上に帰ります。陸上に帰ったら、まずは高知コアセンターでウイルスの数の分析を始めます。
ホイ!ウイルス探しを始めましょう!
レポート10:活動拠点on theちきゅう
神谷 奈々 (日本大学 大学院生(修士))
はじめまして。Team PPPメンバー、日本大学の神谷です。
私が海洋掘削研究に興味を持ったきっかけは、学部1年生の時に参加したJAMSTECの「海洋と地球の学校」でした。
さて、今回は、乗船研究者の船内活動拠点をご紹介したいと思います。
まずは、ラボ区画です。
私たちの主な活動拠点はこのLab floorです。コアのCT撮影、Whole round core sampling(コアを半割する前に、円柱状のままサンプルとして切り出す作業)が終わると、サンプリングテーブル(左写真の中央)に半割されたコアが並び、堆積物の記載やサンプリングが行われます。微生物ラボ(右写真)では、Whole round core sampleとして切り出された微生物分析サンプルのトリミングやパッキングが行われています。ここで処理されたサンプルが、ヘリコプターで高知コアセンターに運ばれ、陸上チームに引き継がれます。
こちらは、ライブラリーです。
レポートやプレゼン準備などのデスクワークは、ここの部屋で取り組みます。写真では伝わりにくいですが、この空間、緊張感がすごいのです。特にミーティング前やレポート執筆時には、みな脇目も振らず、一斉に机に向かっています。集中して作業ができるので、私もみなに交ざって時間を忘れて没頭しています。
私たちが寝泊まりしているお部屋はこんな感じです。
乗船研究者は、Night shift(00:00~02:00)とDay shift(12:00~24:00)の2交代制で活動します。私のお部屋は2人で1部屋なのですが、反対のシフトの人とシェアするので、実質的には独り占めできます。室内には、二段ベッドと机があり、なんと!洗面、トイレ、シャワーがついています。プライベートな空間が確保されており、ベッドの寝心地もなかなか良いので快適です。活動している間はあまり気にならないのですが、ベッドに横になると船の揺れを感じます。ちきゅうの長周期の揺れが心地よく、やさしく睡眠に導いてくれます。
最後に、私のお気に入りの場所での写真を一枚。
ヘリデッキからの風景は、地球はなんて美しいのかとため息がでてしまうほどすばらしいです。夕暮れ時には、空の色がゆっくりと移ろう様子がとても美しく、ただ眺めているだけで感動してしまいます。船はいろいろあるけれど、広い海の上でずっと「止まっている」ことってなかなかないことですよね。ちきゅうだからこその貴重な体験です。仲間の研究者と共に空を眺める時間もまた、特別な時間となりました。
さぁ、航海も終盤です。残りの日々も全力で頑張ります! See you again.
レポート9:デコルマ断層、船上に来たる!
井町 寛之 (海洋研究開発機構 主任研究員)
奥津さんのブログ、Team PPPの写真にちゃっかり写り込んでいた井町です。さて、私がこの航海に参加してる目的はデコルマ断層域に生息する(かもしれない) 超好熱性の嫌気性微生物を培養することです。えっ、何それ?おいしいの?という問い掛けがありそうなので、私の答えをいうのであれば、それは私にとってはとってもおいしい魅力的なものなのです。日頃、脳みその半分以上は微生物のことを考えながら生活している私にとっては、新しい微生物の発見ができる可能性がとても大きいデコルマ断層サンプルを手にできることは夢のようなことなのです。
さて、そのデコルマ断層の破砕帯のコアサンプルを得たときの写真です。それは深夜2時に起きた喜びの瞬間でした!このデコルマ断層のサンプルは本航海が終わり次第すみやかに自分の研究室に持ち帰り、超好熱性の嫌気性微生物を培養する予定です。さて、どんな微生物に出会えるのか?新しい発見があるのか?ご期待ください。え、ちなみに脳みその残り半分は何を考えているのかって?それは家族のことと、あとは秘密です。
レポート8:船での一週間
藤内 智士 (高知大学 助教)
出港して、あっという間に1ヶ月がたちました。そこで、日記を見返して、ある一週間の船での生活を振り返ることにしました。
日曜日
9時半起床。晴。10時からシップドリル(避難訓練)。訓練は日曜日ごとに行われる。内容は毎回異なり、今回はテンポラリールームに避難するよう指示が出る。訓練が終わってから食事に行く。ひつまぶし、白身魚のフライ、酢豚、アサリと唐辛子入りスープ。12時過ぎに新しいコア試料がデッキに上がってくる。シフト(私は12-24時が担当)中に新しいコア試料が取れたときは、できるだけデッキまで出ていって、試料の状態を見るようにしている。デッキに出ると、よく晴れていて暑い。海はベタ凪。ただし、台風が近づいているらしい。夕方は少し雲が出てきて、夜になって小雨が降り始める。24時にシフト交代。他の研究者から断層に関する質問をされる(私の専門が地質学であるためだ)が、英語で上手く説明できない。
月曜日
シフト中に新たなコア試料は取られてこず、これまで取れた試料の記載作業に集中できる。夕方、外国人研究者から日本の島の名前について訊ねられる。夕方の食事の後、19時から始まる安全講習会まで10分くらい時間があったので、他の研究者と卓球をする(「ちきゅう」には卓球台が一つある)。夜、記載をしていると「どうですか」とキュレーターが様子を見にくる。キュレーターは、取れたコア試料や、その試料から研究者が行うサンプリングを管理する方である。「断層がありました」と説明すると、それを見て、「(断層と地層の模様が)あみだくじみたいですね」と言う。夜から船が少し揺れる。
火曜日
10時起床。昼の食事の前に、先輩研究者と二人でコーヒーを飲みながらポップコーンを食べる。シフト始めの打ち合わせで、明日の研究者ミーティングでの報告の一部を私が話すことになる。昼の食事では柿が出る。午後、ここ数日の間に記載した内容をデータベースに入力する。夕方、研究者の一人が他の研究者のシェーバーを借りて髪を切っている。台風は逸れる。
水曜日
6時半に目が覚めたので、ご飯を食べに食堂に行く。夜シフト(0-12時)を担当している先輩研究者がいて、「イクラ丼があるよ」と言ってくれるが、すでに食パンを焼き始めてしまっていたので残念だが見送る。部屋に戻って寝る。12時半から研究者ミーティング。自分の発表はなんとか終わる。午後、力が抜けて集中できない。夕方、ヘリデッキでのんびり過ごす。
木曜日
10時起床。久しぶりにたくさん寝る。「今日は海が青いね」と共同首席研究者の稲垣さんが言う。夕食後、研究者の数名でヘリデッキに出る。三日月が見える。
金曜日
10時起床。晴れ。風が強い。涼しい。昨日の話。昼の食事の時、隣に座っていた研究者に「調子はどうか」と聞くと、「今はいい。先週は(忙しくて)、食事の時間が10分しかとれなかった」と言う。
土曜日
9時半起床。晴れ。午後から風と雲が出てくる。コア試料が上がってきた時にデッキで作業するメンバーは大体決まっているが、夜にコア試料があがってきたとき、いつもは室内作業が担当の研究者たちがサンプリングのためにデッキに来た。そこで、彼らの写真を撮る。すると、「お前は撮ってばかりで、お前が写った写真がない。一緒に撮ってもらおう」と言ってくれる。技術者の方にお願いすると快く引き受けてくれる。ところが、撮ろうとしたときに新しいコア試料がデッキに上がってきて、私の写った写真はおあずけとなった。
私の写った写真は、後日、研究室で無事に撮ることができました(写真1)。
レポート7:小休憩
金子 雅紀 (産業技術総合研究所 主任研究員)
ちきゅうの上からこんにちは。産総研の金子です。
ちきゅうは現在、本航海の核心部分に迫ろうとしていますが、台風18号接近のおそれがあったため、掘削を寸止めししているところです。そのため、船上での仕事がたまっている人はその消化を、そうでない人は思い思いの時間を過ごしています(け、けしてサボっているわけではない)。
私は今回でIODPに参加するのは3回目ですが、これまでアメリカの掘削船ジョイデス・レゾリューションにしか乗ったことがなく、ちきゅうに乗船するのは初めてです。両者を比較して思うところは、やはり「ちきゅう」がいかにデカいかということ。船酔いしやすい私でもさすがに酔いません。ラボのスペースも贅沢です。
設備も充実しています。私は有機地球化学者として参加しており、船上では堆積物中の天然ガス成分(メタンやエタンなどの炭化水素)の分析が主な仕事ですが、分析に用いるガスクロマトグラフィーという装置1つ見ても、オートサンプラーが設置されているおかげで1つ1つ前処理とマニュアルインジェクションで分析する必要がなく、全てオートで分析してくれます。しかも分析装置の操作はマリン・ワークのラボテクニシャンの人がやってくれるという至れり尽くせり。おかげでこういう時はまったりした時間を過ごせています(け、けしてサボっているわけではない)。
ちきゅうなどIODPの掘削船では洗濯をケータリングスタッフがやってくれるのですが、先日結婚指輪を作業着のカバーオールに入れたまま洗濯に出してしまい、紛失しました。冷や汗もので、このまま海の藻屑になる覚悟でしたが、ランドリールームで発見されました。こういうところもさすが(?)ですね。おかげで何食わぬ顔で我が家に帰れそうです。
航海も中盤にさしかかって来ましたが、気合いを入れて核心部分に挑みたいと思います。リフレッシュも十分出来ましたしね(け、けして・・・)。
レポート6:神業リエントリー!
山本 由弦 (海洋研究開発機構 主任研究員)
「あれ?リエントリーコーンがないよ?」
「どうやって入れるんだろ?」
水深4800 mの深海から送られてくる映像に、研究者たちが釘付けです。海底から深く、深く掘り進める掘削では、同じ孔に何度も機械を入れ直して、続きを掘削します。普通は、「リエントリーコーン」と呼ばれる漏斗のようなものが孔の入り口についていて、再投入しやすくしています。それでも、「リエントリーは高層ビルの上から糸をたらしてコップに入れるようなもの」と聞いたことがあります。でも今回は、そのコーンがありません!海底から無造作に飛び出ている直径約50 cmのパイプが見えるだけです。そこにほんの一回り小さなドリルビットを操船だけで入れるのです。しかも、台風がすぐそこまでせまった、波の高い日に・・・
「おおぉぉ」
「きたぁぁ!」
騒がしいのは、研究者だけ。十数分後、ビットは見事にパイプの真上にセットされ、意外なほどあっさりとリエントリー。まさに神業!ちきゅうの技術の高さ、そしてそれを使いこなす職人技に、皆驚嘆していました。写真は、そんな様子です。
さて、私JAMSTECの山本は、4人の仲間とともにSedimentologistとして乗船しています。我々の今回のミッションは、構成している堆積物の記載(Sedimentologist)以外に、断層など構造の記載(Structural Geologist)、そして海洋底地殻を構成する玄武岩等の記載(Petrologist)と、3分野にわたるお仕事があります。つまり、全地質分野担当といったところ。・・・ちょっと人数少ないんでないかい? PPも2人だけだし・・・
部活の合宿並(2ヶ月も)の忙しさが想像されますが、まだ見ぬプレート境界に向けて、25人の乗船研究者仲間(なんと11人が学生さん!)、7人の陸上研究者たちと突き進みたいと思います。
レポート5:コアリカバリーは突然に
星野 辰彦 (海洋研究開発機構 主任研究員)
何から伝えればいいのか分からないまま時は流れてしまいました。さて、「君だけのためのhero」がまだ頭の中で響きオリンピック/パラリンピックの興奮が冷めやらぬなか、突然に陸上班のお仕事が始まりました。そういえば四年前は「風がふーいているー」をちきゅう船上で聞いていたなと想いながら、奇しくもまたオリンピックイヤーに航海に陸上班として参加している星野です。
今回は、船上からリアルタイムに送られてくる掘削コア試料を陸上で待機している研究者が解析するという初めての試みです。主に細胞の計数とDNA解析を行いますが、コア試料中に含まれる細菌の数は非常に少ないため、空気中あるいは我々の皮膚や唾液などに含まれる細菌が混ざってしまうと大変です。そのため、運ばれてきたコア試料の分析はKCCの誇るスーパークリーンルームで行われます。
コア到着は当初の予定どおり23日からと思っていましたが、21日に急に「明日コアが届くよ」と言われ、休日の予定をキャンセルされた家族からの冷ややかな目線を振り切り朝から準備に追われました。この突然さも航海の醍醐味と思うことにします。台風一過の青空、ではなくて土砂降りの雨のなかファーストコアをお出迎えに空港に行きました。室戸の沖合180キロのちきゅうから1時間ほどかけて飛んできたヘリコプターの姿が徐々に大きくなり無事に高知空港に着陸、早速、ファーストコアが車に積み込まれます。そして、空港から車で5分ほどでKCCに到着したコアは、キュレーションチームのグプタさんがリストと照合し確認後、無事にスーパークリーンルームの冷蔵庫に保管され、あとは分析を待つばかりです。
23日からは、はるばるアメリカとカナダから到着した3人の研究者を加えて計6人の陸上チームのお仕事が本格的に始まります。
今日の名言 「le hasard ne favorise que les esprits préparés:幸運は用意された心にのみ宿る」ルイ・パスツール
レポート4:地層の温度を測る
廣瀬 丈洋 (海洋研究開発機構 主任研究員)
まいど! Team PPPの廣瀬です。今日は、海底下の地層の温度を測るセンサーの紹介です。
Exp370 T-Limitsは、海底下生命圏の“温度”限界を探ることが大きな目的なので、地層の温度を実測することも大切なミッションなんです。どうやって測定するか?なんとコアを採取するピストンの先端に体温計のような温度計を仕込むんです(下記写真)。体温計は1~2分わきの下に挟んでいるだけですが、この温度計は地層に刺した状態で10分間もじっとしておかないといけません。
この温度計を使って、深さ4775mの海底面から地下に200mと250m地層を掘り込んだ場所での温度測定に成功しました!このままの割合で、深くなるにつれて温度が上がると予定されている掘削孔底(~1250m)では、現在地下生命の限界温度とされている約120℃を優に超えることができます。果たして、この温度限界を超えた場所に生命圏が広がっているのか!こうご期待。
レポート3:T-リミット開始!
稲垣 史生 (海洋研究開発機構 上席研究員)
地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海掘削計画(IODP)第370次研究航海「室戸沖限界生命圏掘削調査:T-リミット」の共同首席研究者(船上コチーフ)を務める海洋研究開発機構の稲垣です。9月13日に静岡県清水港を出港してから約1週間が過ぎました。現在、高知県室戸岬の沖合約180kmの掘削地点で掘削調査のための準備をしています。船上では堆積学・物理特性・古地磁気学・地球化学・微生物学など、8カ国から選抜された様々な分野の専門家が集い、何か大きな発見がなされる期待を込めながら、今はじまろうとしているプロジェクトの準備を進めています。
この航海では、室戸沖南海トラフ沈み込み帯先端部のサイトC0023で、水深約4.7kmの海底から約1.2kmの堆積物を基盤岩まで掘削し、海底下生命圏の限界とその環境要因を調べようとしています。深海底のさらに奥深くに、生命がどのくらい深くまで存在するのか?それは、どのような地質学的条件や地球化学的な要因で支配されているのか?海洋掘削科学の最先端の技術で、それらの謎を解き明かしていきたいと思います。
掘削地点を含むこの海域は、過去に複数の掘削調査が実施され、多くの地質学的な情報が蓄積している場所です。プロトスラストゾーンと呼ばれる発達過程の付加帯で、海底下約700-750mあたりに厚さ約30m、温度約100℃のデコルマ断層があると予想されます。そこに生命は存在するのか?存在するとすれば、どこから、どのくらいの栄養・水・エネルギー基質が供給されているのか?それらの生命は進化しているのか?地質学・物理化学・地球化学が生命科学と融合することで、はじめてその答えが見えてくるでしょう。また、沈み込み帯先端部の水やガスの挙動と地質学的な強度・安定性を理解することで、地震・津波の発生メカニズムの理解にも役立つ知見が得られるでしょう。
2012年に私たちは青森県八戸市沖80kmの地点で、「ちきゅう」のライザー掘削システムを用いたIODP第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削調査」を実施しました。当時の海洋掘削科学における世界最高到達深度を更新する海底下2466mまでの掘削に成功し、石炭や天然ガスの形成プロセスに関与する世界最深部の海底下微生物生態系を発見するなど、大きな成果がありました。航海ロゴには、それぞれのプロジェクトの科学目標や特徴を見てとることができるので、比較してみると面白いかもしれません。
9月20日、強い勢力を持った台風16号が「ちきゅう」船上を通過していきました。それまでに、海底下180mまでのケーシング作業を終了し、新しく開発された短めのピストンコアリングシステムのテストを実施しました。現在は掘削作業を一時中断し、台風が去ってからのオペレーションや船上作業などの作戦会議をしています。もはや、船上チームの体制は万全と言ってよいでしょう。今後、デコルマ断層帯を含め、どのようなコアサンプルがあがってくるのか、そして貴重なサンプルをいかにフレッシュかつ無酸素の状態で高知コアセンターに運ぶのか、そしてどんな発見があるのか、このプロジェクトの動向には世界各地の科学者・メディアから問い合わせがあり、その期待に応えられるよう、最善を尽くしていきたいと思います。T-Limit特設サイト、Deep Carbon Observatoryにもブログを掲載中ですのでご覧ください:
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp370/report.html
https://deepcarbon.net/feature/dco-t-limit-blog
レポート2 : コアがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!
奥津 なつみ (東京大学大気海洋研究所 大学院生(博士))
室戸沖からこんにちは!東京大学の奥津です。早速廣瀬さんからブログのバトンを受け取りました。
IODP航海には初めての参加&ウルトラ方向音痴な私ですが、「ちきゅう」には今年7月に行われた国際乗船スクールに参加して、既に何日間か乗船していました。そのため、全体的な作業の流れなどはもちろんの事、地図も(なんとな〜く)覚えていて迷子にならずに済んでいます。早速2ヶ月前の経験が活きていて、スクールに参加してよかったなあ、と実感している日々です。
さてさて、あと二、三日以内にはコアがあがり始めるということで、scientistsはそれぞれ各チームでまとまり、準備の最終段階に入っています。Paleomagnetistは私一人なので、さぞかし寂しいかと思いきや…ところがどっこい!Pmagは今回physical property(通称PP)と合体して、Team PPPを結成したのであります!PPとPmag改めTeam PPP、頑張るぞー!おー!
レポート1 : T-limit航海はじまる
廣瀬 丈洋 (JAMSTEC 主任研究員)
まいど! EXP370航海のJ-DESCブログのアレンジ係に任命された廣瀬です。2か月間よろしくです。J-DESCから乗船アサインされた皆さん。ブログ執筆をお願いするので、よろしくです。
あっ!この航海は、IODP史上初の陸上分析班が高知コアセンターに控えています。そちらにもブログ執筆のお願いをするので、諸野さん、井尻さん、星野さん、こころづもりを!
1回目は、やっぱコチーフの稲垣さんに一言頂こうと思います。
・・・とお願いしようとしましたが、現在whole-round sampling planを立てるのに忙しそうなので、また次の機会にお願いしたいと思います。ということで、第1回はこれにて終了。
Exp370 T-Limit航海特設ページ
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp370/
高知コアセンター
http://www.kochi-core.jp/
- Exp.370 航海(Shipboard)
期間:2016年9月12日~11月11日
報告書:PDF - Exp.370 航海(Shore-based)
期間:2016年9月23日~11月23日
報告:PDF - 1st Post Expedition Meeting
期間:2017年4月25日~4月28日
報告:PDF - 2nd Post Expedition Meeting
期間:2018年5月31日~6月3日
報告:PDF - プレスリリース
2021年6月17日 JAMSTEC発表
「南海トラフのスロー地震震源域近傍に高圧の間隙水帯を確認
– スロー地震発生のメカニズム解明へ前進 -」
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