IODP Expedition 323: Bering Sea Paleoceanography
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- 船上レポート
テーマ
ベーリング海掘削:鮮新世―更新世ベーリング海における古海洋変動と気候史
航海予定期間
2009年7月5日〜9月4日
掘削船
JOIDES Resolution(USIO)
乗船研究者
日本から参加する乗船研究者
高橋孝三 |
九州大学 | Co-chief Scientist |
| 朝日博史 | 東京大学 | Sedimentologist |
| 池原 実 | 高知大学 | Organic Geochemist |
| 井尻 暁 | 海洋研究開発機構 | Sedimentologist |
| 岡崎裕典 | 海洋研究開発機構 | Paleontologist (Radioraria) |
| 岡田 誠 | 茨城大学 | Paleomagnetist |
| 小野寺丈尚太郎 | 高知大学 | Paleontologist (Diatom) |
| 坂本竜彦 | 海洋研究開発機構 | Stratigraphic Correlator |
他国から参加する乗船研究者
Christina Ravelo(Co-chief Scientist),Ivano Aiello,Gretta Bartoli,Beth Caissie,Muhong Chen,Elena Colmenero-Hidalgo,Mea Cook,Kelsie Dadd,Youngsook Huh,Katrine Husum,Sev Kender,Douglas La Vigne,Steve Lund,Christian Marz,Alan Mix,Maheswar Ojha,Catherine Pierre,Taoufik Radi,Nils Risgaard-Petersen,David Scholl,Heather Schrum, Zuzanna N.Stroynowski,Emily A.Walsh,Laura Wehrmann
掘削エリア

航海概要
過去500万年の間に地球の気候は,北半球にほとんど氷床のない温暖なモードから,4万年や10万年の周期で氷期が訪れる寒冷なモードへと移行した.その移行の究極的な原因は不明である.また,過去数十万年間に亘り,ミランコビッチサイクルや数百年周期の気候変動が起こった.そのプロセスはいくつかの地域では明らかになったものの,そのメカニズムの本質は不明である.これら長期および短周期の気候変動メカニズムを説明する候補として,北太平洋中層水のベンチレーションが上げられている.しかしながら,ベーリング海を含めたい併用の古気候データは乏しく,グローバルな気候変動における北太平洋の役割を評価するのに不十分である.北太平洋の縁辺域であるベーリング海は,氷期の北太平洋中層水形成域と考えられていることから,グローバルな気候変動メカニズムを解明する上で重要な可能性がある.
本Expeditionでは,ベーリング海から堆積物を採取し,過去500万年間のミランコビッチー数百年スケールの気候変動および北太平洋中層水ベンチレーションを,堆積物中に含まれている各種指標から復元する.また,ベーリング海峡開閉史を明らかにし,北極海を通じた太平洋ー大西洋間の熱塩循環への影響を評価する.北太平洋高緯度縁辺海における連続的かつ高時間分解能の堆積物記録は,本Expeditionにより始めて得られる予定である.
主要目的
1)ベーリング海における鮮新世以降の気候変動と海洋表層環境を明らかにする
2)ベーリング海における北太平洋中層水(深層水)の形成と強さの変動を明らかにする
3)ベーリング海と周辺の陸域とのリンケージを調べるため,ベーリング海周辺の大陸氷床,河川流量,海氷形成史を明らかにする
4)ベーリング海から得られる気候変動記録を,外洋水の記録と比較することで,気候変動に敏感に反応する縁辺域の気候プロセスと,グローバルな気候プロセスの関係を評価する
航海詳細>>USIOのページへ
IODP第323次掘削航海 船上レポート〜ベーリング海より〜
■Exp. 323船上レポートインデックス
船上レポート23>>Episode23:本航海初バーベキュー&ロゴコンテスト
船上レポート22>>Episode22:本航海掘削作業終了!!そして...
船上レポート21>>Episode21:怒涛の間隙水しぼり
船上レポート20>>Episode20:つわものどもと珪質微化石種命名の歴史
船上レポート19>>Episode19:ケータリング
船上レポート18>>Episode18:A Underwear Crisis
船上レポート17>>Episode17:研究者紹介(Micropaleontologists, Day shift)
船上レポート16>>Episode16:Site meeting & Site Summary
船上レポート15>>Episode15:バウワー海嶺 Mt.Whiskey
船上レポート14>>Episode14:Site Meeting
船上レポート13>>Episode13:YES WE CAN!!
船上レポート12>>Episode12:ティリティリティリー
船上レポート11>>Episode11:World recordとクジラたち
船上レポート10>>Episode10:私の仕事場「微化石処理室」
船上レポート9 >>Episode9:長い1日 その3:DolphinではなくPorpoise
船上レポート8 >>Episode8:長い1日 その2:真夜中の訪問者
船上レポート7 >>Episode7:船酔いと顕微鏡
船上レポート6 >>Episode6:長い1日 その1:始まり
船上レポート5 >>Episode5:海は大荒れでも...
船上レポート4 >>Episode4:Happy Birthday!
船上レポート3 >>Episode3:出航〜初コア採取
船上レポート2 >>Episode2:日本からの乗船者
船上レポート1 >>Episode1:スロースタート
■USIO Daily & Weekly Science Report (英語)>>こちら
船上レポート23 9月3日(木)
Episode23:本航海初バーベキュー&ロゴコンテスト
坂本竜彦(海洋研究開発機構)
9月3日(木)
心配された台風11号、船長の機敏な判断でクリル海峡あたりから南西に航路を変えて船を進めた。予測よりも台風の進度が速くなり、船長の読みは見事に的中、三陸はるか沖あたりから東京湾に航路を向けた。台風の雲の南側に入ったため、凄まじく蒸し暑い風が流れ込み、いっきょに、いまは、季節は夏であることを思い起こさせた。海の色も明らかにべーリングとは違うことに気がつき、また、海の匂いも明らかに違うことにも気がついた。あ、そうそう、これが日本のそばの海だよな...と。9月1日の夕方から夜中にかけては、台風が残していったうねりの中に飛び込み、船はかなり揺れた。それでも2日には、すっかりとはれた青空と静かな海。みなでレポートなどを仕上げてしまい、夕方にはムービーマラソン、夜にはエンドクルーズパーティと、土日も遊ぶ間もなかった2ヶ月間の最後を飾るかのように企画が目白押しだった。航海のロゴのコンテストには7件の応募があり、みごと、Tats Sakamotoのロゴが勝利を収めた。3日には、みなが思い思いにTシャツにロゴをアイロンプリントした。お昼には、この航海で最初で最後のバーベキュー、ほんとうに涼しい(寒い)夏だったから、なんともはや格別であった。明日のお昼頃、横浜の大黒ふ頭に船は到着する予定である。
※写真をクリックすると大きな画像を見ることができます。
写真1 台風を通り越した青空の中で 「タイタニック」ごっこをしている乗船者 |
写真2 この航海で最初で最後のバーベキュー |
写真3 航海のロゴ |
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船上レポート22 8月27日(木)
Episode22:本航海掘削作業終了!!そして...
坂本竜彦(海洋研究開発機構)
8月25日(木)
24日未明、最終掘削点U1345(NAV-1B)の掘削を終えた。これで本航の掘削作業はすべて終了した。 掘削期間中、サイト間の回航も数時間とか長くても1日半とかだったので、本当に休む間もなく、働き続けた航海であった。天候が荒れたのは1回だけ、しかも回航中だったので、天候に非常に恵まれた。大きな事故もなく、ケガ人もなく、無事に掘削作業を終えたことを感謝しよう。
航海を通して、合計7地点、総延長で5927m掘削、5741mの堆積物を回収。平均回収率は97%。合計673本のコア(9.5m)、4800本のセクション(1.5m)の堆積物コアを計測、半割、記載、分析した(というかまだ続いている)。船上サンプリングは、37784個となった。
船長から、時計の変更や日付変更を越えるときにどうするのかという連絡が入った。「27日、木曜朝2時に1時間時計を遅らせる.29日,土曜の夜の24時に30日の日曜日を無くし,なおかつ,12時間時計を進める.31日の月曜の14時に1時間遅らせる。1日の火曜日の朝2時に1時間遅らせる。2日の水曜日の午後2時に1時間遅らせ,日本時間にする.」
実にタイミングよく、今日,自分の腕時計が止まってしまった。電池切れだろう.もう,たぶん,時間について,わけわかんなくなると思う.「不思議の国のアリス」に出てくる,うさぎみたいに、大きな時計を首からぶらさげておきたい気分だ。
避難訓練は月曜にやることになったが、日曜日をなくすと、唯一のデッキでのバーベキューもなくなってしまうことになる(今回は結局1回も外でのバーベキューはなかった)。 日曜日だけに出る特製ケーキ(アップル・クランブル)に目がないスペインから来た研究者エレナは真剣な顔をしてスタッフサイエンティストに抗議していたが、はてさてどうなることか。。。DSDP時代から働いていて今回の航海のために臨時でカムバックしたキュレーターのジェリーは、30日が誕生日で70歳になるはずだった。が、30日をなくすことになったので「70歳にならなくてすんだ」とにこやかに笑っていた。。。
25日の早朝、船は日本へ向けて回航を始めた。 北緯20度前後で発生した台風10号(VAMCO)は、日本列島からは遠くはなれていたようだが、進路を北東に向け、 すでに低気圧に変化したが、北側の雲を押し上げた。そこで船は予定を変更し、カムチャッカ半島にそって航路を取ることになった。今回、準備段階では、ロシア経済水域内での掘削点を3点提案し、米国実施機関はロシア政府に対し、掘削許可を申請していた。が、全く連絡もなかった模様だ。国際法上、ロシア経済水域内を移動の目的で航行することは許可されている。今回は掘削できなかったシュルショフ海嶺上を通り、水深3000mのカムチャッカ海峡を通過し、太平洋に出る予定だ。
低気圧の影響で大きなうねりは残っているが、反時計回りの大きな表層海流にのって、まるで波乗りをしているかのように船は快調に進んでいる。もうすこしすれば、カムチャッカ海峡を通り、太平洋に出て行くだろう。
まだまだ、データ処理、レポート作成などは続いているが、緩やかなムードになり、みな、横浜に着いたら何をするか、 日本での滞在計画などを練り始めている。ラーメン博物館やら、皇居ツアーやら、なにやらおかしげなツアーも計画されている様子だ。まあ、でも、まずはビールでしょ。。。
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| Exp.323 航海科学者チームのグループ写真 | 最後のCore on Deck. コアキャッチャーサンプルを受け取る岡崎さん (海洋研究開発機構) |
コアラボで働くインド人研究者のオージャ君(私は「王者」と言う漢字を命名した). 怒涛のコア処理の中で、彼はいつのまにやら自分の分身を作って仕事をさせている。。。 |
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船上レポート21 8月27日(木)
Episode21:怒涛の間隙水しぼり
池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)
8月25日過ぎ,この航海で最後のIWサンプルの間隙水しぼりが終了した.総計588個のホールラウンドコアを切り取り,間隙水を絞り,それらの船上分析が行われたことになる.
クレイジー.
作業中,何度となく聞かれた言葉.
なぜこれほど多くの間隙水絞りが行われたかというと,今回のExpedition323には,3名のGeochemist (地球化学者) のほかに3名のMicrobiologist (微生物学者) が乗船していたからです.
元々のベーリング海掘削プロポーザル(#477)では,微生物関係のテーマは提案されていませんでしたが,APL(Ancillary Project Letters) というIODPのシステムが適用され,高い生物生産量を有する高緯度縁辺海であるベーリング海での地下圏微生物研究を行うために,後付けされたテーマとなります.APLとは日本語だと「付加的プロジェクト」とでも言うのでしょうか.フルプロポーザルに後から加わる形で乗っかる研究テーマになります.
その結果,当初は3名の地球化学者が乗船する予定でしたが,微生物学者3名が加わって計6名が通称ケミラボで働いています.テクニシャンも入れると総勢8名になりますので,普段の航海よりもケミラボも賑やかなのではないでしょうか.しかも,サイエンティスト6名のうち4名は女性です.
微生物学者達は,ベーリング海の5地点で,上部35m程度の微生物専用コアを採取しました.彼らはそのコアから間隙水を絞って分析することが重要になるので,コアを丸ごと輪切りにしてほぼ全て使ってしまいます.ですから,半裁して断面を観察したり,他の分析用のサンプリングをすることができないので,微生物専用のコアが必要になるわけです.
これらは元々掘ることにはなっていなかったコアなので,Dedicated coreと呼ばれています.私も船上で初めて耳にしたのですが,dedicateを辞書で調べると「ささげる」とか「献呈する」と出てきます.なるほど,オリジナルのプロポーザルのシップタイムを譲って微生物用のコアを採っていることになるのですね.
おそらく,今回の地下圏微生物研究の成果は大きなインパクトを与えることになるでしょう.お楽しみに.
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ケミラボで働く人々 最後の間隙水絞りが終わった直後に記念撮影. 右から、ローラ,ニルス,ヘザー,エミリー, クリス(手前),ヨンス,ユリア,ミノル. |
〜ケミラボで働く人々〜
ローラ (Laura Wehrmann) |
ドイツ・マックスプランク研究所のPhD院生で,12月?にPhD審査を控えつつ,ポスドクでの研究材料を手に入れるために乗船してきたムードメーカー. |
| ニルス(Nils Risgaard-Petersen) | デンマークから参加.独特の口調でしゃべる. |
| ヘザー(Heather Schrum) | 米国ロードアイランド大学のPhD院生.彼女も今年PhD審査を控えているとのこと.働き者. |
| エミリー(Emily Walsh) | ロードアイランド大学の大学院生でヘザーの後輩.チーム最年少. |
| クリス(Chris Bennight) | ケミラボの頼りになるテクニシャン. |
| ヨンスー(Youngsook Huh) | 韓国・ソウル国立大学.夜シフトの間隙水絞りを担当.重いプレス器の上げ下ろしはさぞかし大変だったことでしょう. |
| ユリア(Yulia Vasilyeva) | ケミラボのテクニシャン.ロシア出身. |
| ミノル(Minoru Ikehara) | 高知から参加.普段は堆積物の分析をしているが,微生物用コアが採取されると間隙水絞りの助っ人として徴用され12時間労働に従事.ヘトヘトになる. |
船上レポート20 8月25日(火)
Episode20:つわものどもと珪質微化石種命名の歴史
高橋孝三(九州大学)
今回の随筆は、共同首席研究者としてよりも当海域掘削の歴史と古生物学に興味の焦点を合わせたものになります。
ベーリング海掘削は、我が微古生物学の恩師Ling先生のかつての科学の最前線でもあった。話を1970代に遡ろう。今回乗船中のアラスカ大学チャップマン教授のDavid Scholl博士(物性担当)は、かつて1971年にワシントン大学Joeseph Creager教授と共にDSDP Leg 19の共同首席研究者として指揮を執った。その時のLeg 19には乗船科学者として、北海道大学名誉教授(当時大阪大学)小泉 格 博士、ノーザンイリノイ大学名誉教授Hsin Yi Ling(当時ワシントン大学)が居た。今回の船上での堆積物年代決定には、これらの"つわもの"の名前がついているか、或いは本人自身が命名したものが数多く、幾多の歴史を感じさせる。よって、最近出版された北極種を含めた4種について簡単に紹介する。
Neodenticula koizumi Akiba & Yanagisawa 1986.
これは、1986年に秋葉・柳沢博士が小泉博士の業績にちなみ名前を用いて命名した珪藻種である。小泉名誉教授は、珪藻を用いた太平洋・ベーリング海・日本周辺海域の層序学・古環境復元の大きな貢献で知られている。今回の航海では、この種が多産する約390-210万年を特定する重要な珪藻種として活躍している。小泉名誉教授は、今回乗船中のJAMSTEC坂本竜彦博士(層序対比スペシャリスト担当)の恩師でもある。
Distephanus jimlingi Bukry 1979.
この珪質鞭毛藻種は、USGS米国地質調査所のDavid Bukry 博士が、1979年にLing 博士のこの分野での分類・層序学のパイオニアとしての業績をたたえて命名した。ちなみにjim はLing博士のニックネームだ。この種は、252万年前に絶滅している。今回のベーリング海では、300万年前以前の比較的温暖な時期に顕著であり、今後の研究で活躍が確かな種である。Ling 名誉教授は、珪質鞭毛藻の研究でなく、エブリアおよびレディオラリア群集の分類・層序にも卓越した業績を残している。筆者の研究室出身で乗船中の岡崎裕典 博士(古生物学担当)によると、今回役立っているレディオラリア種で無名種が存在し、これはLing 名誉教授が既に1973年にDSDPレポートの中で報告している。Ling 名誉教授は、現在シアトル郊外のベルビューにてご健在で、この秋にはご夫妻で来日を予定されている。
Distyocha subarctios Ling 1970.
これは、Ling 名誉教授が、1970年に命名した珪質鞭毛藻種である。絶滅年代は74万年前で、古地磁気学のブルネス松山境界(正−逆)の78.1万年前のわずか上部に位置する重要な示準化石である。Ling 名誉教授は、その後1976年に日本古生物学会誌に本種の寒冷海域分布の詳細を発表している。本種の写真は、1976論文から引用させて貰ったが、筆者にも若干ではあるが関与がある。当時、筆者はワシントン大学理学部海洋学科のLing 教授の研究室で学部アルバイト学生として雇って貰っていたが、その時の出版用仕事として暗室作業でプリントしたものだ。
Distephanus medianoctisol Takahashi, Onodera & Katsuki 2009
本珪質鞭毛藻種は、筆者高橋らが2004年の夏のIODP第302研究航海の北極航海中に、北極点を含む4点の海氷域の白夜の中で発見した。名前には白夜の意味を盛り込んだ(ラテン語:media:間中 noctis:夜, sol:太陽; 英語のMid Night Sunに相当)。新種の記載・分布等をついこの間の2009年7月にロンドン大学Mike Kaminski 博士・筆者が編集したMicropaleontology特集号にて出版したばかりである。筆者の研究室出身で乗船中の小野寺丈尚太郎博士(古生物学担当)による今回の船上研究では、200万年以降の更新世に多く見いだされており今後の重要な海氷等に関係する環境指標となることが期待出来る。話の題材は約5000万年前に飛ぶが、かつて Ling 名誉教授は、我々IODP第302研究航海チームが掘削したロモノソフ海嶺のとなりのアルファ海嶺で1970頃得られたピストンコアの珪質鞭毛藻群集を研究した。北極海に関して全く未知であった1975年にその成果を始新世の化石として発表した。これは、我々の今回の始新世年代論と古環境詳細復元(Onodera & Takahashi, 2009a,b:Micropaleontology 特集号)に重要な布石と成したことに間違いない。
歴史はこのように輪廻のように続くものなのかなと思う。
ベーリング海最後のサイトU1345掘削終了直後のジョイデス・レゾリューション号にて
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| つわものども | 左:クリスチナ・ラベロ(共同首席研究者) 中:カルロス・ツアリキアン(スタッフサイエンティスト) 右:筆者 (共同首席研究者) |
船上レポート19 8月18日(火)
Episode19:ケータリング
小野寺丈尚太郎(高知大学海洋コア総合研究センター)
洗濯クライシスの記事が岡田さんからありましたが、洗濯だけでなく炊事、ベッド・メイキング、居室・シャワー室・研究スペースの掃除などはケータリングのスタッフによって行われます。普段日常の雑事を兼ねつつ研究を進める独身の私にとっては、なんとも至れり尽くせりな待遇です。たとえば、水深が浅い掘削地点で次々と回収される試料に対処しなければならない多忙な時、私はついつい御飯を食べ損ねる時がありました。しかし、そんな事情を知ってか知らずか、食堂にはいつも様々な手作りパンが準備されていて、それらのパン類は掘削期間中の私の空腹を美味しく満たしてくれました(写真)。そんな訳で、ジョイデス・レゾリューション号では、乗船研究者が日常の雑事を忘れて研究作業に没頭できる仕様になっていて、それは日常生活の諸々や研究作業のサポートを実に多くの担当スタッフの方々が引き受けてくれているおかげなのだなと実感する今日この頃です。今回乗船しているケータリングのスタッフは東南アジアの出身で、とてもフレンドリーな人たちです。彼らと一緒に御飯を2回食べましたが、そのときはお薦めのオカズやデザートをくれました。スタッフの一人は日本語が通じます。その方に教えてもらったのか、たまに廊下ですれ違う時に、満面の笑顔で「こんにちは」と言って挨拶してくれるスタッフもいます。こちらも、彼らの母国語の挨拶を先日教えてもらいました。ほとんど研究中心の船上生活を送る毎日ですが、このようなさりげない交流も楽しいものです。
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朝4時半ごろに並べられた焼き立て手作りパン。 真ん中の丸いパンが人気です。 |
船上レポート18 8月16日(日)
Episode18:A Underwear Crisis
岡田 誠(茨城大学)
前回の坂本さんのレポートでもあったように、私たちはバウワーズ海嶺の基盤岩を図らずも採取してしまったのです(写真)。この海嶺は、三日月のような非常に興味深い形をしております。しかしその形成過程については、これまで海嶺を構成する岩石が採取されたことがないため、まったくの謎でした。今回わずかながらも基盤岩が採取できたことは非常にラッキーでした。なぜなら、この海域で深海掘削が再び行われることは、昨今の状況を考えると、おそらく近い将来(もしくは永久に!?)ないと思われるからです。もしかして、人類史上最初で最後かもしれないチャンス到来に、David School や高橋首席を筆頭に、私を含めサイエンスパーティーのほとんど(いや、3分の1くらい?)はわくわく状態で今後のプランを練っております。
さて、そんな中、朝(といっても夜の11時)目覚め、昨日出した洗濯物が戻ってきているかキャビンのドアを開けると、廊下になにもないことに気がつきました。
船内では、自分の洗濯物は、各自部屋に割り当てられたネット袋に入れ、キャビンの前の廊下においておくと、係の人が集めて、洗濯・乾燥をして、たたまれた状態で袋に入って、通常、半日から一日で戻ってきます。しかしあまり頻繁に出すと、乾燥機の熱で生地が傷み、途中で衣類がこわれてしまう危険性があるので、下着等の残りがぎりぎりになってから洗濯に出してます。
そのときは出してから一日後だったので、とりあえずもう少し待つことにしました。ところが翌日も戻ってきません。靴下や下着は自分がいま身につけているものしかないので、これらを洗濯に出すわけにはいかないのです。幸いにして船内は涼しく乾燥しているので、汗をかくことがありませんが、同じ靴下を連日使用するのはいやなので、裸足にサンダルで作業することにしました。作業が忙しかったため、その日はそのまま寝てしまい、翌日起きてみると、まだ洗濯物は戻ってきてません。同室のアランは、「下着がなくなったら大変だね。ランドリーにいって探してもらった方がいい」と言ってくれました。そして係の人に探してもらうことになりましたが、その日は見つかりませんでした。
次の日、Sedimentologistのケルシーは言いました。「あなたも靴下がなくなったの。他にも靴下がなくなった人がいるみたいだから、きっと靴下フェチがいるのよ」
そんなのが本当だったら、下着類も永久に戻ってこないじゃないですか。
まさにクライシス・・。
その日、作業が終わりキャビンに戻ると、廊下の前に袋が!たった2日間でしたが、通常では考えられない恐怖を味わった長い2日間でした。
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| Bowers ridge基盤の溶岩試料をもつ私。 |
船上レポート17 8月14日(金)
Episode17:研究者紹介(Micropaleontologists, Day shift)
岡崎裕典(海洋研究開発機構)
船では、昼12時から夜12時まで働くDay Shiftと、夜12時から昼12時まで働くNight Shiftに分かれて仕事をしています。今回は、筆者(岡崎)と同じ、Day Shiftの微化石研究者(Micropaleontologist)を紹介します。
Sev Kender(セブ)(底生有孔虫担当):航海当初、筆者と井尻さんはセブにナイスガイというコードネームをつけていた。温厚な彼は紳士の国、イギリスの人。大学院を出た後、しばらく石油会社で働いていて、掘削船の仕事は石油のリグを思い出すそうだ。セブの担当する底生有孔虫は、海底に生息しており、過去の海洋深層環境を復元するのに欠かせない。彼は、通常の炭酸塩殻を作るタイプに加えて、周囲のものをくっつけて身にまとうタイプの底生有孔虫にも詳しい。本航海でも、海綿(スポンジ)の骨針をくっつけた有孔虫がたくさん見つかっている。有孔虫も身にまとうものを選んでいるそうで、白亜紀/第三紀境界には隕石衝突によって形成されたダイヤモンドを選んでくっつけている有孔虫もいるそうだ。
Taoufik Radi(タオフィク)(渦鞭毛藻担当):タオフィクは、モロッコ出身で、フランスの大学へ行き、大学院からカナダでカナダ在住10年目とのこと。彼の住むモントリオール市は、ケベック州にあり、多くの人がフランス語を話すのだそうだ。2児の父でもある彼とは、子供の話などをよくしている(筆者も一児の父)。タオフィクの担当する渦鞭毛藻は、光合成をするタイプと、しないタイプがおり、独立栄養生物と従属栄養生物の境界にいる面白い生き物。渦鞭毛藻は他のプランクトン化石が保存されないような堆積環境でも保存されていることがあり、最近の例では、北極海の海氷形成史復元の主役となった。ベーリング海でも過去の海氷をはじめとした海洋環境復元に威力を発揮することが期待されている。渦鞭毛藻を顕微鏡で観察するためのスライド作りは手間がかかり、次々にあがってくるコアを捌くのにタオフィクは大忙しの毎日を送っている。
Zuzanna Stroynowski(ズーシャ)(珪藻担当): ズーシャは、イギリス出身で、大学(院?)からは、ポルトガルのリスボンに住む。明るい彼女はムードメーカー的な存在で、周りの人の行動に面白い点を見つけては突っ込みを入れてくる。また、お腹が空いたと食堂へ行っては、いろいろ食べ物を探している。先日は茹でたもやし(味付けなし)を食べていた。ズーシャの担当する珪藻は、ベーリング海の堆積物を構成する主要な存在で、あまりにその数が多いために周囲からは、珪藻多すぎ、見飽きた、もう要らない、など散々な言われようだが、ベーリング海の豊かな生態系の一次生産を担う大変重要なプランクトン。過去のベーリング海で、珪藻の生産がどう変化していて、それが気候変化とどう関係があるか調べることは、本航海の大きな目的の一つ。
このように、昼と夜の2チームに分かれて、24時間体制で研究航海が進められていきます。IODP航海では、通常1航海に60日間の期間が充てられますが、その間、休みの日というものはありません。ズーシャが、この仕事の形態を彼女のお母さんに話したところ、“まあ、そんなの人権に反しているわ!(Against the human rights!)”という反応が返ってきた、という笑い話をしていました。JOIDES Resolutionに限らず、どの研究船でも航海中は休みの日を取ることなく観測が続けられます。これは、限られた航海日数で最大の研究成果を挙げるためで、船上は、時は金なりという言葉をつくづく実感できるところです。長いと思っていた本航海もすでに後半に入りました。5週目は疲れも溜まってミスをしやすいし、いさかいも起きやすい時だから気をつけてね、というメールが本日送られてきました。ラストスパートに向けて、仲間たちと元気に過ごしていこうと思います。
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微化石研究者たち(昼チーム): 左からズーシャ,タオフィク,セブ |
船上レポート16 8月10日(月)
Episode16:Site meeting&Site Summary
井尻 暁(海洋研究開発機構)
8月9日
4地点目(U1341)のSite Summary (レポート)の下書きが終わりました。
堆積学者のグループは計8人で昼夜に分かれて仕事をしており,掘削地点ごとに昼シフトと夜シフトから一人ずつがSite meeting (報告会)の準備とSite Summaryの執筆を担当します。
今回は日本人チームで昼シフトの私と夜シフトの朝日さんのチーム。
膨大な量のコア記載とスミアスライド(堆積物をほんの少しプレパラートの上にのせて作った検鏡用スライド)や色,物性のデータをもとに,古生物学者や古地磁気学者など他の分野の研究者とも議論を行いながら,掘削地点で採れた堆積物の全体像をまとめます。(実はこのサイトは他のサイトに比べて掘削深度はそれほど多くはなかったのですが)。
朝日さんと二人,自分のシフト時間中,それとシフトが終わった後も,他のメンバーに「もう寝る時間だよ」と軽く叱られながら,データとにらめっこすること数日,ようやく納得のいく結論が出たのは一昨日のSite meetingの直前でした。発表は朝日さん。彼は緊張で発表中のことは全く覚えていないそうです。本当にお疲れ様でした。
Site meetingが終わってもまだレポートが残っています。堆積学者のチームではレポートをまとめると,まずはグループ内の人に読んでもらい,コメントをもらってまた書き直して最終的に正式に提出することになっています。いきおい,レポートも単純な報告書ではなく,ディスカッションパートまでついた,ちょっとした論文形式のものになります。昨日,ようやく初稿を書き上げメンバーに送り一息つくことができました。中々良い仕事だったよと褒めてもらいましたが,次々とメールで送られてきたコメントには,大量の英語の修正点が・・・
早く寝ろと叱られる日々はもう少し続きそうです。
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シフト終了後も作業を続ける井尻と朝日 (嘘です。数日後にひかえた凧揚げ大会に向けて凧を作成中) |
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船上レポート15 8月9日(日)
Episode15:バウワー海嶺 Mt.Whiskey
坂本竜彦(海洋研究開発機構)
8月6日
バウワー海嶺での最後の掘削点U1342(BOW15A)では165mまで掘削する予定だったが、予想に反して深度50mで固い石に突き当たってしまった。音響反射地下構造探査で、強い音響反射面があり、その下の構造がよくわからない場合、それを「音響基盤」とかいうのだが、ものが何かは実際に掘ってみないと分からない。掘削がいったんスタックし、回転式のコアラー(XCB)に変えたとたん、火山岩が出てきた。このバウワー海嶺は、海底の高まりだが、その起源はよくわかっていない。昔むかしのアリューシャン列島の残骸だろうと考えられているが、その年代も、何の岩石なのか、ほとんど何も分かっていないらしい。そこで、急遽、計画を変更、この岩石類を100m程度掘り抜くことになった。得られた岩石は、いわゆる「火山性砕屑岩」や「溶岩」だった。船上では、岩石に残された地磁気の情報(古地磁気)を調べることで、過去の地磁気方位を調べて、過去にこの海嶺がどこにあったのか(古緯度)を調べようとしている。うまくいくだろうか...あとは陸上で岩石の年代を調べようという計画がはじまった。この航海は、古海洋学が主目的だが、ベーリング海がいつ頃できたのか、などに迫る面白い話題が飛び込んできた。長年、ベーリング海のことを調べてきたディビット・ショールという米国の地質学者にとっては非常に幸せな試料が手に入ったと言える。ディビットは、バウワー海嶺はむかしのアリューシャン列島のような火山弧であったと考えており、1500万年前かそれ以上前にここに大きな火山を想像し、そこに、Mt. Whiskeyという名前をつけた( 彼は自分で Whiskey という名前の山だか丘だかで自分のワインをつくっているらしいんだが、自分の飼っていた猫がその Whiskeyで行方知らずになったらしい。そういう哀愁の念を込めて、こう名付けたみたいだ) 。
船は8月5日には掘削を終了し、次の掘削点へ、北へと回航を始めた。明日の夜半には到着し、掘削をはじめるだろう。移動しながら、一昨日は、第3掘削地点のまとめの会議があった。それをこなしながら、第4掘削地点のデータをまとめている。そのまとめの会議はあさって行われる。今日はお昼に、次の第5掘削地点の準備会議だった。それでもって、時間があれば、それぞれの掘削地点のレポートをまとめている。
息つく暇もないが、今日で航海はようやく中間点。8月6日の夜(夜シフトの我々にとっては朝だが...) MID CRUISE PARTYが開かれた。ダンスパーティだが、「みんな、いつも寝ているパジャマの格好でこい」とのことだった。つかの間の楽しいひとときだった...
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船上レポート14 8月5日(水)
Episode14:Site Meeting
池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)
8月4日,3地点目(U1341)のSite Meeting (報告会)がありました.
航海に参加しているサイエンティストが全員出席するので,仕事時間が完全に分かれている2つのシフトがオーバーラップする時間帯の前後どちらかがミーティング時間となります.この日は,ランチ後の13時からのスタートでした.
まず,掘削されたコアの岩相の特徴やユニット区分などを堆積学者が説明し,次に,古生物学者が微化石から推定した年代などについて報告します.大抵は,この段階でかなりの質問と議論が続き,だんだんと時間がおしていきます.
続いて地球化学,物性,層序対比,古地磁気,ロギングと続きます.皆,チラチラと腕時計や壁掛け時計を気にしつつ,結局,休憩無しでミーティングが続き,終わったのは2時間を超えた15時15分.
それまで12時間働いてきた夜シフトの人たちからは,アクビがちらほら.
前回までの2サイトのミーティングは,11時スタートだったので,ランチタイムが終わる13時までには皆ランチを食べないといけない,というタイムリミットがあったので,1時間半程度でミーティングも終わらせていました.ですが,今日はそのリミットがなかったのです.
しかし,船上分析で出したてほやほやの湯気が立っていそうなデータを皆が持ち寄って,相互にディスカッションをしながらコアの概要をまとめていく,というエキサイティングな研究の現場でもあります.
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| ミーティング風景.発表者は坂本さん. | ミーティング開始から2時間後くらいの朝日君と小野寺君. 「今日は長いな〜」と心の中でつぶやいているに違いない. 彼らは夜シフト。 |
おまけ. 今日はテクニシャンの黒木さんの誕生日でした. ミーティング直後にあったバースデーパーティの時に飾られていた砂糖?のカエル. |
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船上レポート13 8月1日(土)
Episode13:YES WE CAN!!
高橋孝三(九州大学)
現在、掘削終了後のU1341Bと番号の付けられたバウアー海嶺の西側の中腹での掘削孔内で、孔内計測中の作業が進行中だ。つい数時間前まで、この掘削孔から堆積物の掘削コアリング収集をし続けてきた。現地時間7月31日10時にAPCコアリング工法によるコア1H(8.70 m長)が上がってきてから、8月1日15:20に71本目の71X(XCB工法、9.37m長)が得られるまで29時間かかった。25分に一本上がってきた勘定になる。この孔では、海底下600mまでの掘削を予定通り終え、589mの堆積物を98%の回収率でほぼ連続して収集することが出来た。今航海では、既に全長2224mの堆積物を取得したことになる。
この掘削の間、古生物学者(8名、一つの12時間シフトに4名づつ配置)は、それぞれの上がってくるコア9.5m長の底部ののコアキャッチャーの堆積物を即座に処理して顕微鏡で見て年代を決める。そして円柱形のコアは1.5mのセクション毎に切られて、どんどん非破壊のファストトラックのガンマー線による密度測定と帯磁率を計る。そして次のMSL(マルチセンサーロッガー)のより詳細の非破壊測定、自然ガンマ線放射線量(NGR), 温度伝導度等のを行う。この後、円柱コアを始めて半割し、堆積学者による色および写真を自動連続記録記載の後、肉眼での記載を素早くおこなう。30分程度で9.5m長のコア記載を終わらないとあとがつかえて困ることになるのでものすごく大変だ。この間スミアスライドも数枚作り、顕微鏡で見て堆積物中身の粒子の同定もしなければならない。堆積学者8名は一シフトに4人配置したので充分ともくろんだが、結構苦労している様子だ。この後、古地磁気測定(一シフト1人)と続く。皆、それぞれに忙しく働く。
共同主席研究者(Co-Chief Scientist)の仕事は、多様にわたり実に大変である。あと3日で航海の半分にあたる一ヶ月が過ぎようとしている。残りの日にちを時間単位で計算し、どこをより詳細に掘るか航海と掘削計画を日ごとに変更して最大の成果を挙げようとしている。サンプルの分配、各チームワークに問題がないか、機器やソフトウエアの故障に伴う多くの連絡、テキサス・カレッジステーションにある本船ジョイデス・レゾリューション号の本部との諸々の連絡等、例を挙げると切りがない。中でもサイト毎の報告書の執筆は、大変だ。まず、サイト毎に各サイエンティストのグループが提出したものをまとめてサイト毎に電子出版を即行う。最初のサイトのウムナック海台での掘削結果は、既にカレッジステーションに送ったので、既に電子出版されているはずだ。同時に現在、航海終了時に電子出版する予定の全てのサイトの情報を含む200ページ程の出版物をサイトごとに準備中だ。それに加えて航海1年後にCDの形で出版するExpedition Report は、原稿が下船時に100%完了している必要がある。今準備しないと、次々にサイトがくるのであとが困ることになる。あとは、陸上での編集作業がある。さあサイトレポートの作業にもどろう。8月1日午前3時20分 ジョイデス・レゾリューション号にて
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| YES WE CAN!! |
船上レポート12 8月1日(土)
Episode12:ティリティリティリー
朝日博史(東京大学)
"ティリティリティリー"
威勢の良い音がコアラボ内に響く。
私から1メートル先にある内線電話が、鳴っている音だ。
ここジョイデス・レゾリューション号では、この内線電話がひっきりなしになっている。船内は広く且つ複雑な構造をしているので、この内線電話が連絡を取る最も簡易な方法だからだ。海外の人は解らないことがあると、すぐに人に聞く。測定機材に何かトラブルがあったり、採取された堆積物試料のサンプル方法について少しでも疑問があるとすぐに連絡してくる。この内線以外にも、船内アナウンスで、"〜, please call XXX. (〜さん、内線何番に電話してくださいの意味)" が数分に一回くらいは流れる。このことからも、彼らのメンタリティーに"解らないことはすぐに聞く"という習性がしみ込んでいることが実感させられる。これは何かの説明をしてもらったときに、"Don't hesitate to ask me anytime.(いつでも質問してねの意味)"と言われることからもよくわかる。
"ティリティリティリー" 内線電話はまだ鳴り続けている。
日本でも、内線を取るのは、最も近くにいる人の責務であることくらい、私も知っている。しかし、この場合は英語だ。英語の授業で、電話に出るときは、"Hello, this is XX speaking." と習ってはいるが、これは内線だ。普通の電話とは違う。日本語でも内線で電話して、"私〜です"と言われても困るであろう。周りの皆は、各々の仕事か、研究のディスカッションの最中で、電話を取る余裕など全くなさそうである。あぁどうすべきか。電話を取るべきか、測定で忙しいことにして狸寝入りを決め込むかと腹を決めかねていると、近くにいた、坂本さんが電話を取って、"Core labo." とだけ言って電話を取った。確かにそうだ。日本でも内線を取るときは部署を名乗るのが常識だ。今回の電話に関しては、坂本さんが取ったときには切れていて、その後、"内線お願いします" のアナウンスが流れてことなきを得た。これでまた、研究以外で一つ良いこと(英語での内線の出方)を学んだ。次からは電話が鳴ったら出てみようと決意してその日のシフトはおわった。
この経験を、サンプリングシフトで一緒になった小野寺さんと、岡田さんと話す機会があった。3人とも、どうやって内線に出るべきかと話をしていて、"Core labo." の様な、場所の名前を言うのが最も適切だと言う結論に至った。
そこで気づいたのだが、このCore labo.はジョイデス・レゾリューション号の中でも1、2を争う大きな部屋である。今この場所から見ても、確認できるだけで、数台の内線電話があるのである。"これは問題だ。どの内線か言わなくてはならないのか。" と新たに現れた、問題(たかが内線にでるだけなのだが)に3人で頭を悩ませていた。その時、"ティリティリティリー" 3人の目の前にある内線電話が、例の威勢の良い音を響かせている。
"・・・どうしよう・・・" 私の内線デビューの日は、また遠くなりそうだ。
(今回のブログの文章の形式は、岡田さんの承諾を得て、前回の岡田さんのブログの形式に合わせて書きました。)
後日談(?)その後すぐに、Sedimentologist のChristian (英語はかなりうまいですが、母国語はドイツ語なのでネイティブスピーカーではない)が、"It's Christian on the phone." と答えてました。様はどうでもいいから伝わりゃいいのかと、思い直しました(また新しいことを覚えました)。
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| ジョイデス・レゾリューション号の内線電話 |
船上レポート11 7月31日(金)
Episode11:World recordとクジラたち
坂本竜彦(海洋研究開発機構)
現在、第3掘削点である、U1341(BOW-14B)を掘削中である。ホールBにおいて、9.5mのコアバレルに対し、コア回収の長さが、53Hで9.3m、54Hで0.53m、55Hで0.06m、56Hで0.02mとなり、57本目からはXCBに変更された。ということで、55Hで458.42mまで到達した。前航のPEAT 兇巴成されたAPC(アドバンスド・ピストン・コアラー)最長記録414.4mを軽く超して、早くも記録更新である!
航海も22日を過ぎた。すでに我々は以下のコアを得た。
U1339(UMK-4D);掘削深度200m、4掘削孔、孔内計測、合計63コア(535セクション)、総延長643.4m、平均回収率103%、約80万年前までの完全な堆積記録を回収
U1340(BOW-12B);掘削深度604.6m、4掘削孔、合計83コア(534セクション)、総延長642.87m、平均回収率90%、年代はまだ検討中だが、コアの最下部は400万年前程度。途中、層序的に欠落がある可能性がある。
U1341(BOW-14B);掘削深度458.4m(更新中)、3掘削孔(A; 1H-41H, B; 1H-56H, 57x-掘削中、孔内計測予定)、7/31現在、合計97コア(698セクション)、総延長834m、平均回収率102%。北半球氷河化(270万年前前後)の記録が取れた可能性。
忙しい中ではあるが、28日と30日の2回、クジラがやってきた。船長がアナウンスで、「クジラがいる」と知らせると、わらわらと人々がデッキに集まってきた。「船上避難訓練よりも集まりがいいじゃないか」と船長が皮肉を言うほどだった。28日はかなり遠方に何匹か、昨日は船のすぐ近くに1匹。背びれの形、胸びれの白い斑点、おなかのまだらの白い模様、尖ったアゴ などから、ミンククジラだろうと皆で推定した。30日のクジラは5mはあろうかと思われた。ぼこぼこっと、泡があがってきて、そのあと、水面に現れた。一度、潮を吹いてから、潜って、それからどこかへいってしまった。ここベーリング海は、クジラたちや野生の動物たちの聖域なのだ。ちょっとお邪魔してコアをとらせてもらうよ...
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| クジラたちの聖域に、ちょっとお邪魔しまーす... | |
船上レポート10 7月31日(金)
Episode10:私の仕事場「微化石処理室」
小野寺 丈尚太郎(高知大学海洋コア総合研究センター)
私は、岡崎さんと同様にプランクトン化石(以下、微化石)を用いたコア試料の年代決定を行う役目で乗船参加しています。私が担当する微化石はこの航海で沢山出てくるので、微化石処理室と顕微鏡がある自分の作業スペースを忙しく行き来する毎日を過ごしています。微化石処理室には大きな窓が2つあり、それぞれ海の景色(Photo1)と掘削作業場の様子を見ることができます。私は夜12時から昼12時までを担当しているので(掘削は1日24時間フルに行われています)、先日岡崎さんの記事で掲載されたようなベーリング海の夕焼けを見ることはありません。でも、朝焼けが見られるかというと、今のところ毎日曇っていて、まだ朝焼けは見ていません。普段は、実験室の中からでも外の景色を少しでも眺めることができると、少しほっとします。しかし、作業がなかなか進まないうちに夜が明け始める様子を見たときは、内心少し焦ることもあります。船の周りには早朝から海鳥がぷかぷかと海面を漂っていて、今日はクジラも見られたようです。時々、私と勤務時間が同じである古地磁気担当の岡田さんも、こちらへ外を眺めにやってきます。
微化石処理室には、不足する消耗品をリクエストするためのホワイトボードがあり、ここに書いておくとスタッフの人がそれを見て必要な対応をしてくれます。当初は、「Wish List(希望リスト)」というサンタさんにクリスマスプレゼントをお願いするようなタイトルがホワイトボードの上部に書いてありました。そこで、乗船研究者らが真面目な物品リクエストに加えて、Blue sky(ベーリング海はなかなか晴れないので)とかBeer(この掘削船は酒類の持込み・飲酒禁止なので)とか、Nature paper(研究者は有名雑誌に自分が筆頭著者の論文を書きたいので)とか好き放題書いていたら、タイトルが「VALID Wish List(有効な希望リスト)」になって無理なお願いは全て消えてしまいました。今は、「Watashi wa namae wa nani?」という謎な日本語の一文がローマ字で書いてあります…(Photo2)。
日々忙しく過ごす船上生活、気づけば航海日程の1/3が終わってしまいました。7月、8月をベーリング海で過ごすことになりますので、日本人乗船者にとって今年は夏を感じることが少ない年になりそうです。暑さ知らずのベーリング海から、暑中見舞い申し上げます。
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写真1 大きな窓から望む、海 |
写真2 Wish List から一転。。。 |
船上レポート9 7月29日(水)
Episode9:長い1日(その3:DolphinではなくPorpoise)
岡田 誠(茨城大学)
20cm間隔の測定はさすがに早く、みるみるうちにコアラックが空いていった。しかし忙しすぎて、データ整理や図の作成ができない。今航海は掘削サイト間の距離がないので、いつも前のサイトサマリー発表会をやるときには、次のサイトの掘削が始まっている。前回は、午前11時から発表会だったが、古地磁気測定が終わったのが午前7時。データのダウンロードは半分くらいしかできなかったので、途中までのデータで図を作成し、ギリギリでプレゼンファイルが作成できた。
基本的に、この船でのあらゆる測定データはすべて一旦、船内の情報管理システムを使ってメインフレームサーバーへとアップロードされ、半分手作業でダウンロード可能な形に加工されている。まずこのアップロードが信じられないくらい遅い。このあたりはそのうち解決されるのであろう。
計測の間、ほんの数分であるが息抜きに外を見にいくことがある。古地磁気スペースの隣にある、微古生物試料の処理室に大きな窓があり、外を一望できる。島が近くにあるわけではないので、海上しか見えないが、ここではたくさんの海鳥が海面で休んでいる。しかしいるのは鳥だけだ。
前のサイトでは、かなりの数のイルカのような生き物が高速で泳ぎ回っているのが常に見えた。あまりに動きがはやく、カメラはとても無理で、ビデオ撮影がなんとかできた。目をこらしてみると、背中が黒で腹が白いシャチのようなカラーリングや、尻尾の先が白いことがわかった(写真)。長さは人間と同じくらいであるが、ずんぐりとした体型で、ほとんどV字ターンくらいの方向転換をしていた。海生生物の図鑑を持っている人がいたので、みんなで調べたところ、Dall’s Porpoise(ネズミイルカの一種)のようであった。同じ歯鯨目ではあるが、Porpoiseは、いわゆるDolphinとは違う科なのだそうだ。また、時速50キロ以上の高速で、ジグザグに泳ぐことができるのが特徴らしい。とてもシャッターは押せないと納得した。
いまとなっては懐かしいPorpoiseのことを思い出しているうちに、ラックのコアはほとんど片付いてきた。
「モーニング」
スティーブがやってきた。
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息継ぎのため、海上に現れたDall's Porpoise。 ビデオキャプチャー画像。 |
船上レポート8 7月29日(水)
Episode8:長い1日(その2:真夜中の訪問者)
岡田 誠(茨城大学)
この状況で2.5cm間隔測定ではコアが溜まるよなあ、などと思いながら測定を続けていたが、目の前のラックは一向に片付かない。その時、掘削方法はAPCという乱れのないコアをとる方法から、より固い堆積物用のXCBという方法へ変更されていた。XCBは回転刃を用いているため、採取されたコアは細かくちぎれて回転し、古地磁気偏角が復元できない。そのため、早くコアラックを空けたい乗船テクニシャンたちは、「XCBのコアは測らないんだよね」としきりに聞いてくる。「偏角はだめでも、強度と伏角の情報はとれるんだよ」などと説明しながら、心の中ではどうしたものかと思案していた。次のHoleへ移ったら、掘削深度が0mへ戻るため、今以上のスピードでコアがあがってくる。そうなる前になんとかしなければ、他の作業に甚大な影響が・・。
悩んだあげく、無いよりましということでXCBコアについては20cm間隔で測定することを決定。こうなると5分置きにコアを交換することになり、その他の時間はデータチェックやコアの運搬に費やされ、ひたすら作業に没頭。学生時代にやっていた、自動車部品工場の夜勤アルバイトが思い出された。
そんなとき、時ならぬ喧噪に作業が中断した。物性測定をやっているインド人研究者のオージャが、鳥をつかんでコアラボに上がってきたのだった(写真)。タバコを吸いにデッキに出たところ、鳥が歩いていたので手を出したら捕まえられたそうだ。早速、バードウォッチングが趣味のミアに見せたところ、Fork-Tailed Storm-Petrel(ウミツバメの一種)という遠洋性の鳥であることが判明。かれらは一年のうちほとんどを陸から数百キロも離れた海上で暮らし、海水を飲んで水分補給をしているらしい。ウミツバメの仲間はクチバシにある塩分除去のための突起が特徴的だ(写真2)。よろこんで写真やビデオをとっていたら、あっという間に時間が・・。いそいで作業に戻ったが、少しリフレッシュできた一時であった。
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写真1 左からChristopher Beveridge (Physical Properties Technician)、 Mea Cook (Sedimentologist: 米国)、 Maheswar Ojha(Physical Properties Specialist: インド)。
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写真2 ウミツバメのクチバシ付近のアップ。 |
船上レポート7 7月27日(月)
Episode7:船酔いと顕微鏡
岡崎裕典(海洋研究開発機構)
このレポートをご覧になっている方は、乗船している研究者はみんな船に強い(船酔いをしない)とお考えかもしれません。しかし、前回の井尻さんのレポートにもあるように、意外と船に弱い人も乗っています。なかでも私は、一番弱い部類で、なぜこんなに船酔いをするのに船に乗らないといけない研究をしているのか、自分でも疑問に思うくらいです。小学校のバス遠足などでは、たいていクラスに一人二人は、乗り物酔いをする子がいるものですが、私はその一人でした。
はじめて研究航海に参加する機会を得たのは、今からちょうど10年前(1999年)、今まさに行われているベーリング海Expeditionの準備に必要な地質調査を行う白鳳丸(東京大学海洋研究所)航海でした。10年前の今日、私は、高橋Co-chiefや古地磁気研究者の岡田さんらとともに、白鳳丸でベーリング海に向かっていましたが、出航してから3日間ほどは、ベッドから起き上がることもままならず、海の研究を始めてしまった自分の迂闊さを後悔していました。しかし1週間ほどすると徐々に体が船に慣れて、その後は充実した乗船生活を送れました。
それから早10年、そんな私も大小さまざまな研究船に乗り、乗船日数はこのベーリング海Expeditionで通算200日を超えました。出航後しばらくは、気分が悪い日が続きますが、最近は、無理やり体を慣らさず、もっぱら酔い止め薬に頼るようにしています。気分が悪くなると、1錠で1日効果が持続する酔い止め薬(効果抜群)を飲むようにしています。ジョイデス・レゾリューション号は、とても大きな船で、普段はあまり揺れを感じませんが、さすがに先日のシケのときは、大きく揺れました。危険を察知した私は早めに酔い止めを飲み、そのおかげで、一日元気に過ごせました。
船上での私の仕事は、海底堆積物の中のプランクトンの化石(微化石)を顕微鏡で見て、堆積した年代を明らかにすることです。数十万年、数百万年という長い時間の中で、プランクトンの種は進化したり絶滅したりしながら、その殻(主に、炭酸カルシウムと珪酸塩に分かれます)の形を変えていきます。微化石研究者は、どの種がどの時代に生きていたか、という歴史年表のような情報を持っていて、それを使って年代を調べるのです。揺れる船の中での顕微鏡作業は、船酔いをするのに最適な作業ですが、幸いこれまでのところ無事仕事をこなせています。
最初のサイト(ベーリング海東部のウムナック海台)では、長さ約200mの堆積物を採取しました。英語版のDaily Reportにもあるように、微化石の記録から、コアの下部が約70万年から80万年前であることがわかりました。堆積速度が速いこの試料を使って、過去数十万年間に起こった急激な気候変動を詳細に調べる研究が行われることになりそうです。
とても船に弱い私ですが、海底堆積物を使って過去の気候の変化を調べる研究はとても面白く、また研究船生活も楽しんでいます。特に、船ではいろいろな人との出会いがあります。これまでに乗った船では、その後も長く続く貴重な出会いがありました。この航海でも、そんな知り合いを見つけたいと思います。
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| 効果抜群!強力な味方と. | 船上から. |
船上レポート6 7月27日(月)
Episode6:長い1日 その1:始まり
岡田 誠(茨城大学)
「モーニング」
乗船者の1日はこの言葉で始まる。夜シフトの私は、たいてい午後11時前に起きてシャワーを浴び、食堂へいく。この時間帯に食堂にいるのは同じシフトの人々なので、だれにとっても「おはよう」なのである。そこでエネルギーを補給し、皆それぞれの持ち場へ向かう。
私は2階上のコアラボへ上り、昼シフトの古地磁気研究者のスティーブ (Steve Lund教授:写真1)に測定状況を聞いて驚いた。目の前にあるコアラックは既にいっぱいになり、測定しているコアは、はるか向こうのコア切断室に置いてあった。古地磁気測定だけが他の作業と比べて大幅に遅れていた。私は、測定間隔を2.5cmから5cmへと粗くすることを告げ、作業に移った。
「グッドナイト」の言葉を残し、スティーブは部屋へと帰っていった。
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写真1 左がSteve Lund教授(南カリフォルニア大学)、右が私。 前回乗船時(12年前のODP Leg172)も一緒に仕事をした旧知の仲。
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船上レポート5 7月23日(木)
Episode5:海は大荒れでも...
井尻 暁(海洋研究開発機構)
7月21日
明け方,波の音がうるさくて目が覚めました。
私の部屋は舳先近くに位置し,ちょうど海面と同じぐらいの高さにあるため,波が船体にあたる音がとてもうるさいのです。
前日に最初の掘削点での掘削を終え,次の掘削地点に向かって航行を始めたので波の音がするのかと思いましたが,音だけでなくかなり揺れていることに気づきました(部屋に窓がないので外の状況が全くわかりません)。結局,よく眠れぬまま交代の時間になり,ラボに上がっていくと,夜シフト(夜中の0時から昼の12時までの当番)の堆積学者4人全員が揃っておらず,聞くと二人は船酔いでダウンしたそう。外を見ると海は大荒れでようやく事態が飲み込めました。夜シフトから昼シフトへの簡単な連絡があった後,早速作業にとりかかりましたが,昼シフトのメンバーも一人船酔いでダウン。今日は一日,船が揺れに揺れてまっすぐ歩くこともままならず,作業も遅々としたものになりました。
我々堆積学者の仕事は掘削されて上がってくる柱状の堆積物試料の様子を記載すること。堆積物をほんの少しスライドガラスに乗せて顕微鏡で観察し堆積物の中のプランクトンの殻や鉱物を同定したり,堆積物の様子を記載したり,堆積物の色や帯磁率を測ったり,全てをまとめてデータベースに入力したりと4人全員揃っているときでも大忙しです(詳細はまた別の日に紹介したいと思います)。
それでもいつも元気な堆積学者チームはこんな日でも冗談を言い合いながら作業を進めます。掘削で堆積物が乱されてしまった堆積物の構造を見て,「この構造はなんて記載すればいいんだろう?」と他の研究者に聞くと,「クラップだよ,クラップ,綴りはC R ・・」,ふんふんと真面目に聞いているとそばでもう一人が笑っている。聞いてみると全然違うものでした・・・
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大荒れの海 撮影:朝日氏 |
コアを記載している様子 |
船上レポート4 7月22日(水)
Episode 4:Happy Birthday!
池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)
個人的なことですが,7月15日に誕生日を迎えました.3時のおやつの時間に,ギャレー(食堂)でみなにお祝いしていただきました.ホールケーキにはちゃんとHappy Birthday Minoruと書かれていて,おいしく頂きました.
その後でも,食事の用意をしてくれる人やクルーなどからも「ハッピーバースデー」と言われてうれしい限りです.家族に祝ってもらうのも良いですが,外国船の上で迎える誕生日もまた格別です.
そういえば,初めてジョイデス・レゾリューション号に乗船したのは10数年前の大学院生の頃でしたが,そのとき(Leg162:北大西洋ゲートウェイ)も夏でしたから,船上で誕生日を祝ってもらいました.あのときは何かもらったのだろうか....
| 撮影:朝日氏 | お祝いにもらったカードとおもちゃのバッチ. 中のカードにはそれぞれのお国言葉で お祝いメッセージが書かれていました. バッチはすぐ壊れました. |
船上レポート3 7月19日(日)
Episode 3:出航〜初コア採取
朝日博史(東京大学)
7月10日
朝、出航準備の慌ただしさで目が覚めました。航海前で緊張しているのかもしれませんが、ほんのちょっとしたことで目が覚めます。出航の瞬間に立ち会えたと考えれば、ラッキーでした。デッキに出てみると既に、何人かの乗船者がカメラを持って、クジラはどの辺りに見えるかなとか楽しげに話しながら、出港準備を見ていました。港を出るときに、クジラを発見したり(残念ながら私は見られませんでしたが)、世界的に有名な潜水艇のアルビン号を積んだアトランティス号に遭遇したり、イベント盛りだくさんの出航でした。私のいる堆積学者のグループを含め、陽気な人が多くて、楽しい航海になりそうです。
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7月11-12日
各研究者は、航海前の準備で忙しく仕事をしていました。IODPの航海では、航海中に行う基本的な研究の概要をまとめたExplanatory Note(説明ノート)を作成しなければなりません。我々堆積学者のグループも、航海中に採取される堆積物の記載に必要な用語の定義を決めるため、何度も集まって話し合いをしました。この話し合いでは、ある一つの定義についてみんなで意見を言い合って、納得したら先に進むと言うスタイルが一般的です。最初は日本との違いに少々戸惑いましたが、年齢やキャリアの上下関係なく意見を交換できるこのスタイルの方が、サイエンスを遂行する上では楽な気がしました。

7月13-14日
海外の研究者たちは、みんな陽気で、どんなときでも冗談を言っています。時々話していて、どこからが冗談か、まじめな研究の話か、わからなくなるときが多々あります。英語漬けの生活が1週間近くすぎて、自分の脳みその中に英語で何かを考える部分と、日本語で何かを考える部分が出来て、切り替えるのが難しく考えるときが多くなりました。といっても完全に自分の意見を英語で表現できている訳ではないですけど。
Explanatory Noteはかなり完成に近くなってきました。今日からは、このExplanatory Noteをもとに、これからコア記載(堆積学者の仕事)で使う参考資料の作成を行い始めました。今回の航海で使う用語についての理解が大分進んでいるので、皆で手分けして、船に積んでいる資料のコピーや、インターネットを使って資料集めをしました。頭を使う作業が多いので、必然的に糖分が恋しくなります。船のMess Hall(メスホール:食事をするホール)に甘いクッキーや飲み物を取りにいくことが多くなり、明らかにカロリー過剰摂取な気がします。下船後の体重が気になる今日この頃です。
船内の掘削施設の見学があったのと、掘削前の準備が整ってきているのを見て、研究者みんな、明後日のコア採取が待ち遠しいとの会話があちらこちらで聞かれます。明後日からは、12時間みっちり働かないと、と気を引き締めながら、自分のシフトに生活リズムを合わせる調整をしました。
7月15日
ジョイデス・レゾリューション号では、誕生日をみんなで祝います。今日は、日本人乗船者の池原さんの誕生日でした。本人には内緒で、誕生ケーキの準備をして、Mess Hallで待ち伏せをします。みんなが集まった後、ハッピーバースデーの歌を歌ってお祝いして、ケーキをみんなで食べます。“ハッピーバースデーの歌は日本語だとどう歌うんだ”と聞かれたのですが、いまいち日本語の歌詞がしっくりきません。皆さん知っていますか?
誕生日の準備はヨーパーソンと言う事務仕事を一手に引き受ける人が中心となっておこないます。彼女のオフィスには本航海で誕生日を迎える人のリストが貼ってありました。研究以外での刺激が少ない生活でのこういったイベントは、長い船内生活を送る上で貴重なイベントだと思いました。
7月16日
明日夜中の掘削に向けて、Pre-Site Meeting(掘削前会議)と、David Scholl博士によるベーリング海の成り立ちの研究紹介がありました。Pre-Site Meetingでは、共同首席研究者の高橋孝三教授からサイトの説明と想定される堆積物についての説明がありました。そろそろ本番が近づくと気が引き締まります。David Scholl博士は、前回のDSDP(深海掘削計画)(註)での航海から30年以上ベーリング海の形成史を研究されている、“ベーリング海の生き字引”な方です。発表内容はかなり興味深く、彼自身の専門である、地質学だけにとどまらず、海流の流れや環境変動についての提案も盛り込まれていて、専門性に縛られない、独創的な発表に興奮を覚えました。
7月17日
ついに本日2時に掘削されたコアが船上にあがってきます。ラッキーなことに我々夜シフトの担当時間なので、シフト開始時間からみんなそわそわしています。昼シフトの研究者の多くも、眠い目をこすりながら最初のコアがあがってくるのを楽しみにしています。
朝5時頃“Core on deck”のアナウンスを聞いて、急いでヘルメットをかぶってCat Walk(キャット・ウォーク:掘削船のやぐらがある掘削エリアと研究区画などがあるデッキをつなぐ通路)に出ました。ジョイデス・レゾリューション号では、堆積物コアを一気に採取するのではなく、約9 mのコアを採取しながら掘り進んでいきます。今回はそのうちの初めてのコアが船上に回収されるのです。そして各コアは、外のCat Walkでセクションと呼ばれる1.5mの単位に切断されます。昼のシフトの研究者の一部も起きてきて、本航海での初めてのコアを前に興奮を抑えきれずにいました。
コアがデッキに上がったとき、微化石研究者は、コアキャッチャーと呼ばれるコアの先端部分の堆積物から、化石の抽出をして、堆積物の年代を決定します。今回のコアでは、小野寺さんが、名誉あるコアキャッチャー採取人第一号に選ばれました。
切断されたコアは、Fast Track(ファースト・トラック)と呼ばれる暫定的な物性測定の後、室温になるまで、4時間ほど寝かされます。堆積学者の出番はこの4時間の後、コアが縦に半割されてからです。出番までもう少しです。
しかし、いくら待っても、コアの半割が始まりません。なかなか室温に戻らないそうです。いろんなことがあって、待つだけ待ったのですが、結局シフト交代の時間まで、堆積物を観察することは出来ませんでした。残念です。次のシフトの人には楽しみはおいといてねとだけ残して、今日は就寝です。
註)DSDP(Deep Sea Drilling Program:深海掘削計画):IODPの前身であるODP(国際深海掘削計画)のさらに前身の科学プロジェクト。1968年にアメリカが開始し、後に日本も参加する国際プロジェクトとなった。
船上レポート2 7月13日(月)
Episode 2:日本からの乗船者
坂本竜彦(海洋研究開発機構)
今回のベーリング航海に乗船する日本人研究者の紹介です。写真は、船上のカメラマンに撮ってもらいました。
【上段左から】 坂本竜彦 Stratigraphic correlator 海洋研究開発機構 深海掘削4回目 (ODP Leg 160, 186; IODP Exp 302) 池原実 Organic Geochemist 高知大学 深海掘削3回目 (ODP Leg 162, 177) 小野寺 丈尚太郎 Micropaleontologist (diatom) 高知大学 深海掘削2回目 (IODP Exp 302) 井尻暁 Sedimentologist 海洋研究開発機構 深海掘削初乗船 |
【中段左から】 高橋孝三 Co-Chief Scientist 九州大学 深海掘削5回目 (ODP Leg 116, 130, 141; IODP Exp 302) 岡田 誠 Paleomagnetist 茨城大学理学部 深海掘削3回目 (ODP Leg 145, 172)
【下段左から】 朝日博史 Sedimentologist 東京大学海洋研究所 深海掘削初乗船 岡崎裕典 Micropaleontologist (Radiolarians) 海洋研究開発機構 深海掘削初乗船 |
船上レポート1 7月9日(木)
Episode1:スロースタート
坂本竜彦(海洋研究開発機構)
7月4〜5日,乗船する研究者全員が出港地であるビクトリア(カナダ)入りし ました.5日の夜には,前航の321T航海の人々とのクロスオーバーパーティがあり,皆で参加しました.323航海の海外から乗船者も集まり,いっしょにカナディアンビールを呑みながら顔合わせです.このようにリラックスした雰囲気の中で前項の経験者から話を聞き,また,これから乗船するものどうしが,顔合わ せや交流をはじめることは,乗船するチームのなめらかな構成のために非常に重要です.
7月6日,朝8時,チャーターされたバスに乗り込み,ホテルからOgden Pointという埠頭に停泊したジョイデス・レゾリューション号に移動しました.乗船手続きをし,荷物を船に運び込み,居室に入りました.この日から船で寝泊まりです.今回のポートコール(船の諸準備)にはかなり時間がかかるということがアナウンスされました.6日は乗船手続き以外には予定はなく,陸にもどって,船 上で使うものや嗜好品などの買い物などをし,交流を深めました.
7月7日,朝8:30からサイエンティストのミーティングが開始されました.自己紹介,船の運航計画などの基本事項の確認をしました.今回の首席の高橋孝三教授からは,今回のベーリング航海実現に至った経緯,科学目的についてのレクチャーがありました.その後,皆の顔写真を取りました.顔写真は名前と船での分担(専門)とともにリストにして船内のいろいろなところに張り出されます.
その後,船内ラボのツアーを行いました.午後は,各ラボのチームに別れ,仕事の内容や装置の使い方などについての打ち合わせが開始されました.また,船上生活のもろもろ,船内コンピューターネットワークなどの使い方についてのレクチャーがありました.とりわけ,船内のトイレが航空機と同じようなバキューム式のものに一新されましたが,よく詰まるそうです.必ず一度流して動くことを確認してから使うように,と強調されました.
7月8日,朝8:30からミーティング継続です.今日は,船上のサンプリングについての一般的なルールの説明,サイエンスパーティの役割や義務についての説明がありました.午後には,船長(キャプテン)から,船の安全方針や注意事項についての話,緊急時の対応,救命胴衣の使い方,救命ボートの使い方と避難経路の確認などが行われました.その後,掘削コアの深度の定義Stratigraphic correlation(層序対比)についての手順や問題などについてのレクチャーがありました.若干の休憩の後,船上サンプリングについての打ち合わせがはじまりました.特に,微生物サンプリング,間隙水サンプリングなど,コアが船上に上がってすぐサンプリングしなければならないので,リクエストを出している研究者からの説 明と,これらを実現するためのコアフローについて検討されました.
7月9日は,午前中も船上サンプリングについての打ち合わせが行われる予定です.船の準備状況によりますが,出航は今のところ10日の朝の予定です.
このベーリング航海,国際深海掘削計画(ODP)掘削提案書が提出されてから実現まで紆余曲折,なんと14年かかりました.日本の研究者が主導して提案した提案書であり,掘削実現までに様々な努力をしてきました.航海の開始もスロースタートです.出航後,最初の掘削点までの移動は約1週間,現在のところ,経路に低気圧が発達しており,海は荒れ模様になると予測されています.はてさて,船酔いなど,皆どうなるでしょう...実りの多い航海であることを祈りたいと思います.
※写真をクリックすると大きな画像を見ることができます。
写真1 Exp.323 日本人乗船研究者 |
写真2 会議の様子 |







