IODP Exp. 339航海終了メディアリリース

このメディアリリースは日本時間1月18日 20時に発表されました。
原文(英語)はこちらでダウンロード可能です。

イベリア半島沖、海底を流れる川の砂と泥の中に見た過去600万年間の地球の歴史

世界中から集まった科学者を乗せた掘削船JOIDES Resolution号が2ヶ月間にわたる研究航海を終え、リスボンに帰港した。かつて掘削されたことのない海域で、総延長5キロメートルに達する海底コ ア試料の回収に成功。今回の航海で採取された海底コアから、研究チームは過去の詳細な気候変動の記録や、地球深部の変動に関する証拠を得た。さらに、今後 の石油や天然ガスの探査に役立つ重要な知見を得た。

2012年1月18日、ポルトガル・リスボン

世界中の海は、静かな状態から大きくかけ離れた状態にある。海の中にはさまざま な水の流れがあり、絶えずダイナミックに動いている。海の中の流れはやがて合流してグローバルなベルトコンベヤーとなり、地球の熱輸送機関となって気候を 安定に保つ役割を果たしている。いくつかの海峡(ゲートウェイ)は、海洋循環に大きな影響を与える。ジブラルタル海峡はそのようなゲートウェイの一つであ り、約600万年前に大西洋から孤立した地中海が、再び開いた時から現在まで、絶えず大西洋と地中海の海水の交換が営まれている

訳注:ジブラルタル海峡 が開いたのは530万年前と考えられている。それ以前の600~530万年前には地中海は大西洋から孤立し、蒸発が進んだと考えられており、その事変は メッシニア塩分危機(Messinian Salinity Crisis)と呼ばれている。さらにそれより古い600万年前以前は、大西洋と地中海をつなぐゲートウェイは別の場所に存在したと考えられている。

今日では、ジブラルタル海峡の海中深くで、地中海の水が滝のように流れ出てい る。この水は大西洋の海水よりも高塩分で重いため、海底斜面を水深1000メートル以上を一気に流れ落ち、海底を削って深海の海底谷をつくる。削られた海 底では岩盤がむき出しになり、別の部分では泥の山ができる。しかしながら、この流れが作る特殊な海底地形は今のところ詳しくはわかっていない。そしてこの 海底の山を作る泥や砂は、地中海流出水ができた530万年前から現在までの気候変動や地殻変動に関する情報を記録している。

昨年11月から8週間にわたり、掘削船JOIDES Resolution 号で地中海流出水によってたまった泥や砂(コンターライト)の掘削回収がおこなわれた。航海には日本を含む14カ国から35名の科学者が参加した。コン ターライトとは、海中で等深線(コンター)に沿うように流れる底層流が運んできた砂や泥の堆積物を指す。イベリア半島の南西沖やカディス湾は、地中海流出 水による底層流が1000 m付近のコンターに沿って流れている。ここはコンターライトの研究に最適な場所と考えられてきたものの、これまで堆積物の掘削が一度も行われていない。今 回行われた統合国際深海掘削計画第339次航海:地中海流出水(Integrated Ocean Drilling Program: IODP Expedition 339: Mediterranean Outflow)は、この場所で海底下深くから堆積物コア試料を回収する初めての試みであった。今回の研究航海の共同首席研究者を務めたDorrik Stow 教授(英国Heriot-Watt 大学)は、「コンターライトの特徴を明らかにすることができ、コンターライトの堆積作用に関するこれまでのパラダイムを疑いの余地なきものにすることがで きた」と語る。「今回の航海は、私たちの疑問に多くの答えを与えてくれた。その多くは予想通りのものであったが、同時にまったく予期せぬ発見もあった」

研究チームは、地球深部の地殻変動の鼓動「テクトニック・パルス」の証拠を発見 した。ここはヨーロッパプレートとアフリカプレートのつなぎ目にあたり、これまで地殻構造の上下動がゲートウェイの周辺で繰り返し起こってきた場所であ る。このような地殻変動は、ときに巨大地震や津波を発生させ、それによってできた大規模な流れは大量の土砂を深海に運ぶ。また、7か所の掘削サイトのうち 4か所では地質記録の欠損が見られた。これは砂や泥が海底にたまらない時期が長く続いたことを意味する。つまり、過去のある時期に地中海流出水が強まって 海底が削られたのだ。

もう一人の共同首席研究者であるJavier Henandez-Molina博士(スペイン Vigo University)は「過去600万年の間、ジブラルタル海峡が地中海と大西洋とを遮る堤防、あるいは両者をつなぐゲートウェイとしてどのように機能 してきたのか、その解明が始まった」と語る。「私たちは、ジブラルタル海峡から深海に流れ出る地中海流出水の強い流れの記録を手に入れたのだ。

最初の掘削サイトは、ポルトガルの西方沖であった。このサイトは、過去150万 年間の地球環境の変動を知るための連続海底コアを得る目的で選ばれた。このサイトのコアは少なくとも4回の主要な氷河期の堆積物を含んでおり、グリーンラ ンドや南極の氷床コアから得られる気候変動の記録や、他の陸上・海洋記録と比較するための重要なコアとなるだろう。

訳注:最初のサイトで回収された泥はコンターライトではなく、遠洋性の泥。

研究者を驚かせたのは、最初の掘削サイトで見いだされたものと同じような記録が カディス湾で掘削回収されたコンターライトの泥の中にも見出されたことである。カディス湾の泥はイベリア西方沖に比べて数倍の速さで堆積しているため、さ らに時間解像度の高い気候変動記録を保持しているかもしれない。

Henandez-Molinaはさらにこう解説する「コンターライトは気候変 動という暗号の解読にはいくぶん不向きであると考えられてきた。というのも、コンターライトにはさまざまな供給源から運ばれた泥や砂が含まれているため、 気候変動の記録だけを取り出すことが難しいからである。しかし、コンターライトの泥の変化が意味するものは、さらに意義深いものかもしれないことが今回の 研究航海で分かってきた。気候変動と海洋の変動は密接に関連している。コンターライトの泥の中に、気候と海洋のリンクに関わる記録が残されているように思 える。

もう一つ研究者を驚かせたことは、コンターライト堆積物の中に予想をはるかに超 える厚さの砂が見つかったことである。この砂は底層流の通り道にできた溝(チャネル)を埋め、海底の泥の山の中に厚く存在し、あるものはジブラルタル海峡 から100キロメートル近く離れた場所に広く砂を運んでいたのである。このことは、とりもなおさず地中海流出水がつくる底層流が強く速い流れであった時期 が長きにわたって続いたことを示している。さらには、この発見は将来の石油・天然ガスの採掘に大きなインパクトを与えるだろう。

Stow はさらにこう続ける「こういった砂の物性、層厚、分布を調べることで、この砂が深く埋没した際に炭化水素の貯留岩になるかどうかを評価することができるだ ろう」。一般的に、斜面を流れ落ちる混濁流によってたまった砂が石油や天然ガスの貯留岩の役割を果たしている。これに対して、コンターライトの砂は、底層 流が作るチャネルや段丘部に全く異なるメカニズムで堆積している。「コンターライトの砂は、粒の大きさが揃っている(淘汰が良い)。このため空隙が多く透 水性が高いため、より質の高い貯留岩になり得る。私たちの発見は、今後の石油・ガス探査の新しいターゲットになる可能性を秘めている」

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